第5章 戦火【土方歳三編】
すっかり旅支度を整えた平助君は、近藤さんと共に見送りに来ていた私と千鶴を見ていつもの様に笑ってみせる。
「さて、んじゃ行ってくるとすっか。オレがいない間、皆のことよろしくな」
「うん。できる限り、お手伝いしてみるから」
「特に、永倉さんや原田さんの事は任せてね」
「隊士募集の件、頼むぞ平助。俺も来月には江戸に行くからな」
平助君はこれから江戸に向かい、そこで新選組隊士の募集をする事になっていた。
だけど、実際に入隊させるかどうかは近藤さんが江戸に到着してからになるらしい。
江戸に先に向かう、平助君の活動は勧誘の下準備となるらしい。
「平助君は何かあてがあるらしいけど、入隊してくれそうな人がいるの?」
「あ、そういえば言ってたね。あてがあるって……」
「む、雪村君姉妹はまだ聞いていなかったか?確か名は伊東さんと言ってだな、北辰一刀流の剣客で学もある人らしい」
「……伊東さんって、もしかして伊東甲子太郎さんでしょうか?」
「千尋、伊東さんの事知ってんのか?」
「あ、知っているというよりも名前とどんな人かって聞いた事があるの」
八郎お兄さんのお父上が営んでいる、伊庭道場に通っている時に、そこに同じく通っていた方が北辰一刀流も習っていたのだ。
「伊庭道場に通っていた時にね、そこに同じく通っていた方が元々北辰一刀流の人らしくて……そこで、伊東甲子太郎という方が凄く素晴らしい人で、とてもためになるお話をされるんだって言っていたの」
素敵な人で、学もあり、その人はこれからの日本の未来を背負うのは伊東甲子太郎という人のような方だと話していた事を思い出す。
あまりもに絶賛していたので、それだけ凄い人なのだろうと想像していた。
「成程、成程。伊東さんとは会ったことはないが、その方がそこまで言うなら素晴らしい人なのだろうな」
「……まあ、正直言うと、伊東さんとはそこまで親しいわけじゃないけどさ。たぶん話は聞いてくれると思う」
「うむ、それで充分だ。伊東さんは尊王派と聞いているが、義を持って話をすれば、必ずや力を貸してくれるに違いない」
なんだか歯切れの悪い平助君に、近藤さんはうんうんと頷いてみせる。
「……よし、それじゃあそろそろ行ってくる!綱道さんのこともできるだけ調べとくから期待して待っててくれよ!」
「ありがとう、平助君」