第5章 戦火【土方歳三編】
長州の過激派たちが御所に討ち入ったこの事件は、後に【禁門の変】と呼ばれることになる。
新選組の動きは後手に回り、残念ながら活躍らしい活躍もできなかった。
味方同士の間での情報の伝達が上手くいかず、無駄に時間を浪費してしまったのだ。
けれど、戦場では不思議な出会いもあった。
御所の防衛に向かった新選組の各隊、それぞれ手強い適と遭遇することとなる。
風間千景。
池田屋で沖田さんに負傷を負わせた彼は、薩摩藩に所属しているらしい。
天霧九寿。
池田屋では平助君の額を割った張本人であり、彼もまた薩摩藩に所属しているとのこと。
不知火匡。
彼は長州浪士と共に戦っていたと聞いた。
(風間、天霧、不知火。三人とも、聞いたことがある名前だ……)
父様から聞いた名前を持つ彼らは、新選組の幹部と同等以上の力を持ち、強大な敵と言える存在だった。
もし彼らとまた戦うことなれば、新選組も大きな被害を受けるだろう。
(厄介な人達だな……また、遭遇する事がなければいいのだけど……)
そして、長州の御所への攻撃は、会津藩と薩摩藩の協力の前で失敗となった。
失敗した彼らは、京から逃げながらも都に火を放ったのだ。
運悪く北から吹いていた風は、京の町の一部や御所の南方を焼け野原に変えた。
この火事が原因で、捕らえられた尊皇攘夷の国事犯たちは一斉に処刑されたと聞く。
この【禁門の変】の後、長州藩は御所に向けて発砲した事を理由に、朝廷に歯向かった逆賊として扱われていくこととなる。
この事件がきっかけとなり、長州藩は【朝敵】とされたのだった。
❈*❈元治元年・八月❈*❈
池田屋事件や禁門の変など、大きな事件が相次いだせいで市中は不穏な空気が漂っている。
その影響で、新選組はますます務めに励んでいるけれど……ある問題が発生していた。
新選組が幕府に認められて、公の仕事が増えていくにつれて、隊士の数が不足しているのが問題となっていたのだ。
京や大阪で隊士を募集したけれど、それでも人手は足りない一方である。
新選組は考えた末に、江戸でも隊士を募る事を決めた。
その先触れとして平助君が、江戸に経つことになったある日ーー。
夏の鋭い日差しが、私たちに降り注いでいた。
「平助君、暑いから体調には気をつけてね」
「おう、ありがとうな!千尋」