第5章 戦火【土方歳三編】
「……もしかして、薩摩藩の指示を無視しているとか?」
「おそらくな。薩摩の連中も扱いかねているようだった。大分迷惑してるようだが、風間には強く言えないらしい」
「なるほど……その風間とやらは薩摩の中でも、相当に優遇された立場があるのでしょう」
優遇された立場。
土方さんや沖田さんと渡り合う実力者だから……という理由だけではない気がした。
すると、土方さんは苦々しげに吐き捨てる。
「奴は特権の上に胡坐を掻いてるだけの甘ったれだ。そんな奴に【誇り】だなんだと言われる筋合いはねえ……」
そんな時だった。
永倉さんが、隊士の方々を率いて山から降りてくる。
そして、永倉さんは土方さんの姿を見るとわずかな安堵を表情に浮かべた。
永倉さんの安堵の表情は直ぐに消える。
そして、なんとも言えない複雑そうな表情を浮かべながら土方さんの元に来ると言葉をかけた。
「上に行って見てきたぜ。残念だが……、長州の奴らは、残らず切腹して果ててた」
人が、この山の上で死んでいる。
その現実に、少しだけ気分が落ち込みながらもその光景を想像しないようにした。
「自決か……敵ながら見事な死に様だな」
「……あの、土方さん。あの時【罪人は斬首刑が当然】と言っていたのに、何故、切腹した彼らをたたえたんですか?」
それが不思議で尋ねると、土方さんは無表情のままで私に言葉を投げかける。
「……わからねえみてえだな。確かに新選組としては良くねえよ。奴らに目的を果たさせちまったんだからな。だがな、潔さを潔しと肯定するのに、敵も味方もねえんだよ。……わかるか?」
「……わかるような、わからないような。難しいですね」
正直に言えば、土方さんは何故か表情を柔らかくさせていた。
すると、私に対して小さく笑みを浮かべる。
「おまえも、もう少し俺たちといれば、わかるようになるかもしれねえな……」
「そう、でしょうか……」
彼の考えが分かるようになるまで、私と千鶴は彼らと共に居るのだろうか。
そんな事を考えながらも、私たちは他の新選組の皆さんと合流する為に、天王山から御所へと戻る。
道中、土方さんたちは今後の動きについて相談を続けていた。
私と千鶴はそれを聞きながらも、天王山を降りていく。
「……これから、また忙しくなりそう」
「そうだね」
夕焼けの光が、まるで燃え盛る火のように見えた。