第5章 戦火【土方歳三編】
「ーー総司の悪口なら好きなだけ言えばいい。でもな、その前にこいつを殺した理由を言え!」
殺意をみなぎらせた永倉さんは、刀を抜き放つと男へと殺気が滲んだ目を向ける。
永倉さんの足元には、切り捨てられた隊士さんが一人事切れている状態。
「その理由が納得いかねえもんだったら、今すぐ俺がおまえをぶった斬ってやる!」
「ふん……貴様らが武士の誇りも知らず、手柄を得ることしか頭に無い幕府の犬だからだ。敗北を知り戦場を去った連中を、何のために追い立てようと言うのだ。腹を切る時間と場所を求め天王山を目指した、長州侍の誇りを何ゆえ理解できぬ?」
その言葉に私は思わず驚いた。
てっきり、天王山に逃れた長州勢は大阪まで逃げ延びるとばかり思っていたから。
だから、この男の【切腹】という言葉に驚く。
ふと、私は土方さんたちを仰ぎ見る。
だけど彼らは驚いた様子はなく、恐らく最初から予想が出来ていたのだろう。
(この男、長州侍の誇りの為に新選組を足止めしようとしてるんだ。……突然、隊士の方を切り捨てたりしてまで)
だけど、その男の行動に理解は出来なかった。
「勝手に京に襲撃しておいて、多くの人の命を奪っておきながら誇り?そんな事、理解なんて出来るはずがない」
「……千尋?」
「自分たちが仕掛けた戦なのに、誇りを持って切腹したい?死にたい?馬鹿馬鹿しい……。しかも、貴方は誰かの誇りのために、誰かの命を奪ってもいいと?それこそ馬鹿の考えることだ……!」
怒りがじわじわと溢れ出してくる。
自分で制御出来なくなるほどの怒り、そして奥底にあの時味わった悲しみと絶望が顔を覗かせる。
あの時もそうだ。
あの時の人間達も、自分達の誇りの為に私の大切な人たちを奪っていったのだから。
「貴様……」
男が苛立ちを見せながら私を睨んで来た時だ。
土方さんが声をあげた。
「偉そうに話し出すから何かと思えば……。戦いを舐めんじゃねえぞ、この甘ったれが!」
「何だと……!?」
土方さんの言葉に、男は刀の柄を握り直す男に対して、土方さんは平然と言葉を重ねていく。
「身勝手な理由で喧嘩を吹っかけたくせに、討ち死にする覚悟も無い尻尾巻いた連中が、武士らしく綺麗に死ねるわけねえだろうが!罪人は斬首刑で充分だ。……自ずから腹切る名誉なんざ、御所に弓引いた逆賊には不要のもんだろ?」