第5章 戦火【土方歳三編】
「てめえ、ふざけんなよ!ーーおい、大丈夫か!?」
永倉さんが声を荒らげながら、倒れた隊士の方を抱き起こす。
でも、抱き起こしてもその人は動きはしない……何せ、もう息が無いのだから。
斬られたその人の身体からは、じわりとゆっくり血溜まりが広がっていく。
その光景に私はまた吐き気を感じながら、身体を震わせて倒れそうになるのを何とか耐える。
「千尋っ……!」
私の異変に気が付いた千鶴が駆け寄り、私の背中をさすってくれる。
そして、突然の攻撃に驚いていた他の隊士さん達が、直ぐに彼へと殺意を向けた。
「段だら模様か……その羽織、新選組だな。忠臣蔵の真似事とは、相変わらず野暮な風体をしている」
からかうような、挑発するような言葉。
目立つ黄金色の髪に、一目見て分かる高級そうな着物を身にまとった男の言葉に隊士の方々の怒気が高まっていく。
新選組の屯所に来たばかりの頃、平助君達から新選組がこの隊服をまとうにはそれなりの理由があると聞いた。
だからこそ、男の言葉に腹が立ち、反論したかったが変に挑発に乗らない方が得策。
「あの夜も池田屋に乗り込んで来たかと思えば、今日もまた戦場で手柄探しとは……田舎侍にはまだ餌が足りんと見える。……いや、貴様らは【侍】ですらなかったな」
その言葉に、隊士の方々の殺気が更に増していくのが分かった。
だが、男はその殺気を気にする素振りもなく言葉を続ける。
「ここで引き返せ。さもなくば、今の者のように血反吐を吐いて倒れることになるぞ」
先程から、新選組を挑発したり神経を逆撫でする言葉ばかりを吐く男。
その男に土方さんがゆっくりと口を開いた。
「……おまえが池田屋で総司を倒した奴か。大した凄腕らしいが……ずいぶん安い挑発をするじゃねえか」
土方さんは男に厳しい眼差しを向け、凍てつくような冷笑を浮かべる。
「【腕だけは確かな百姓集団】と聞いたが、この有様を見るにそれも作り話だったようだな」
何処までも神経を逆撫でする男。
自分が切り捨てた隊士さんを見下ろすと、男は鼻で笑ったのだ。
「池田屋に来ていたあの男、沖田と言ったか。あれも剣客と呼ぶには非力な男だった」
男の言葉に、土方さんが瞳を細めながら奥歯を噛み締めていた。
沖田さんを蔑まれた事に対して、どやら怒りを顕にしているようであり、私もまた怒りを感じる。