第1章 始まり【共通物語】
「あ。……ごめんごめん。そうだよね、僕が言ったんだもんね」
ひぃひぃと笑い過ぎて涙目になったその人は、少しだけ背筋を正して千鶴に向き直る。
「どう致しまして。僕は沖田総司と言います。礼儀正しい子は嫌いじゃないよ?」
「ご丁寧に、どうも……」
「で、君は?君はお礼は言わないの?」
沖田総司、と名乗った男は私へと視線を向ける。
お礼を言うのはおかしいとは思うけど、千鶴もお礼を言ったのだから私も言わなければならないのだろう。
千鶴と同じように身だしなみを整えてから、私は頭を下げた。
「助けていただき、ありがとうございました……。そしてお礼を言うのが遅くなり、申し訳ありません」
「凄く嫌そうな顔しながら言うね。でも、さっきも言ったけど、礼儀正しい子は嫌いじゃないよ」
「そう、ですか……」
まるで子供のように無邪気に笑う彼に、なんとも言えない感情になってしまう。
そう思っていれば、沖田と名乗った人は紹介を始めた。
「君達を助けてくれたのが斎藤一君。それで、こっちの偉そうなのがーー」
「……わざわざ紹介してんじゃねぇよ」
「副長。お気持ちはわかりますが、まず移動を」
すると、沖田さんという人は千鶴と私の手首を掴むとそのまま笑顔で歩き始める。
だが手首をつかむ力の強さに、体が少しだけ硬直してしまった。
逃がさないつもりなんだ。
逃げれば斬るつもりなんだろうと、つかんでくる手の力に理解した。
(……逃げたら、殺される)
息を飲んでいれば、斎藤さんという人が言葉を投げかけてきた。
「己のために最悪を想定しておけ。……さして良いようには転ばない」
その言葉にまた息を飲んでしまう。
これから、私や千鶴はどうなってしまうのだろうか。
怖い。
人間は怖いけれど、自分に対しても恐怖は感じた。
あれだけ嫌いな血の池の横で、死体の真横で、私達は彼らと話をしたのだから……。
この時からなのだろう。
私と千鶴の運命が狂い始めたのはーー