第5章 戦火【土方歳三編】
「源さんも守護職邸に行く近藤さんと同行して、大将が暴走しないように見張っておいてくれ」
「はいよ、任されました」
土方さんが冗談交じりに言うと、小さな声でくつくつと笑う隊士さんたちがいた。
そして近藤さんは、暴走してしまう自覚があるのかばつが悪そうに苦笑している。
「残りの者は、俺と共に天王山に向かう。それからーー」
土方さんは困ったように、私たちへと視線を向けてくる。
私たちはどこの隊にも所属していないから、どこに向かわせるかと悩んでいるのかもしれない。
「……おまえ達は、好きな場所に同行しろ。だが、近藤さんについていくのは無しだ」
「はい」
「わかりました」
確かに、私達のような小娘が守護職邸へと行っても何も役には立たない。
そうなると、行くとすれば原田さんが向かう公家御門か、斎藤さんと山崎さんが残るこの蛤御門。
そして、土方さんの向かう天王山か……。
一応だが、私たちは土方さんの小姓。
なら、土方さんについて行くのが妥当なのではと考えて千鶴に声をかける。
「千鶴、土方さんに同行しよう。一応、私たちは土方さんの小姓だからね」
「…そうだね」
「では、私たちは土方さんに同行させてもらいます」
「……わかった」
そして私たちは、土方さんたちと一緒に天王山へと逃げた長州浪士を追い掛けた。
伏見からかなりの距離を走ったにもかかわらず、皆の走る速度は緩まない。
池田屋の時とは違う疲れがある。
あの時は一人で走っていたけれど、今は土方さんたちがいて速度を合わせて走らなければならない。
(千鶴の体力が、持つかな……)
そう、心配していた時だった。
駆け抜けていた新選組の前に、とある人影が立ちふさがった。
「……なに、この気配」
ぞくりと背筋が冷える。
この気配はよく知っているような、そして久しぶりに感じるような気配だ。
すると、それまで先陣を切って走っていた土方さんは、その人影に異様な空気を感じてか走っていた足を止めた。
そして土方さんは他の隊士さんたちにも、立ち止まるよう手振りで合図をする。
だけど血気にはやる一人の隊士の方が、その合図を無視して駆け続けようとした時だった。
「ぎゃあっ!?」
「っ……あっ…!」
一刀のもとに切り伏せられた。
その光景に、思わず私は悲鳴を上げそうになり慌てて口を抑えてから体を震わせる。