第5章 戦火【土方歳三編】
明け方の空に、砲音が響き渡っていき、新選組の方々や会津藩の方達も立ち上がり困惑した表情をしている。
そして遠くの町内から、争う人々の声が聞こえてきた。
すると同時に新選組幹部の皆さんは、互いに顔を見合わせると頷き合った。
「ーー行くぞ!」
唖然としていた隊士さんや私たちに斎藤さんが大きな声を出して言葉をかけてくる。
その言葉に全員が頷く。
「はいっ!」
「はい!」
私と千鶴も頷きを返して、新選組の皆と共に駆け出そうとした時だった。
会津藩の方々が叫んで呼び止めてくる。
「待たんか、新選組!我々は待機を命じられているのだぞ!」
呼び止めてきた会津藩の方に土方さんが眉間に皺を寄せて、睨みつけていた。
「……待て、だと?」
土方さんは、行軍の最中ではほとんど怒る事はなかった。
隊をまとめる立場として、下手に怒り散らかす訳にもいかなかったようだ。
声を荒らげる役は永倉さん達に任せて、お役人相手に丁重に接していた。
だけど、ここで土方さんの我慢の限界が来たらしい。
「てめえらは待機するために待機してんのか?御所を守るために待機してたんじゃねえのか!長州の野郎どもが攻め込んできたら、援軍に行くための待機だろうが!」
「し、しかし出動命令は、まだ……」
「自分の仕事に一欠片でも誇りがあるなら、てめえらも待機だ云々言わずに動きやがれ!」
「ぬ……!」
土方さんは会津藩の方の返答を待たず、風を切るように歩み始めた。
そんな土方さんを見ながら、千鶴が近くを歩いていた斎藤さんに声をかける。
「……私たち、どこに行くんですか?」
「敵が確実に居る場所ーー蛤御門を目指す」
「蛤御門……。蛤御門は、会津藩の主力が守っている所ですよね?そちらに移動するんですか?」
私の質問に斎藤さんは目を伏せながら小さく頷く。
「うむ。蛤御門では激しい戦闘が始まっているだろう。あんた達も、今のうちに気を引き締めておけ」
「……はい!」
「分かりました」
「特に、雪村妹。確実に刀を抜かずに済むとは言えん。だから、刀を抜くことになる事や人を斬るかもしれんという覚悟を持っていろ」
「……はいっ」
もしかしたら、長州が私たちへと攻撃をしてくる可能性だってある。
なら、私は刀を抜くかもしれない、人を斬ることになるかもしれない。
冷や汗が背中に伝う。
息を飲み込みながら、私は刀に触れた。