第5章 戦火【土方歳三編】
「……どうやらこの会津藩の兵たちは、主戦力じゃなくてただの予備兵らしい。会津藩の主だった兵たちは、蛤御門のほうを守っているそうだ」
「では、新選組も予備兵扱いということですか?」
千鶴の問に、幹部の皆さんは苦い顔を浮かべていた。
そんな中で永倉さんは怒りを浮かべた表情で、吐き捨てるように言葉を呟く。
「……屯所に来た伝令の話じゃあ、一刻を争う事態だったんじゃねえのか?」
「状況が動き次第、即座に戦場へ馳せる。今の俺たちにできるのは、それだけだ」
「待つしか、ないんですね」
場合によれば、夜襲も起こりうるかもしれない。
今夜は、新選組の屯所に来たばかりの時のように気が抜けないだろうな。
「千鶴、千尋。休むなら言えよ?俺の膝くらいなら貸してやる」
「え……だ、大丈夫です!」
「原田さんではなく、私の膝を貸しますから大丈夫です……」
「おいおい千尋、そう睨むなって。別に変な事をしようって訳じゃねえんだから。たく、千鶴が絡むとお前は警戒心が強くなるな」
私たちの会話を聞いて、幹部の皆さんは少しだけ笑みを浮かべていた。
でも、新選組は緊張状態のまま夜を明かすことになった。
空が白みだした頃。
最初は気を張っていた千鶴だが、どうやら気を張りすぎて疲れたようで、うとうとと船を漕ぎ出した。
「……無理に気を張らなくてもいいのに」
小さく笑いながら、私は頭を揺らす千鶴の頬にかかった髪の毛を避ける。
すると千鶴は擽ったかったのか、僅かに身をよじった。
「千尋君も、無理に起きていなくても大丈夫なんだよ。少し眠っていても大丈夫さ」
「いえ……眠る訳にはいきませんから。眠ってしまえば、千鶴を守れませんので」
「……なあ千尋ちゃんよ。前から気になってたんだが、なんでお前さんはそこまでして、千鶴ちゃんを守ろうとするんだ?」
永倉さんの質問に原田さんが小さく頷き、井上さんや斎藤さんと少し気になっている様子が伺えた。
「……言われてるんです。千鶴に仇なす者から守るように、何時以下なる時も側にいて、命を懸けて、命を捨てる覚悟を持って守れと……幼い頃から」
「……それは」
原田さんが何かを言いかけた時だった。
辺りに大砲の音が鳴り響き、地面が僅かに振動したのが分かり、その音に千鶴の目が開く。
「ーー大砲!?」