第5章 戦火【土方歳三編】
「ここを離れるだと?戦場で軍令を無視してなんとするつもりだ。局長。戦場では伝令が交錯するものです。自ら動くなど愚の骨頂。今はこの場で待機するべきものだと考えます」
「ここが我らに与えられた陣ならば、その話、わからんでもない。だが、今は我が新選組の進退に関わる問題でもある」
「君は、新選組の戦奉行であるこの私に向かって、意見を言うつもりか!?」
武田さんはやっぱり、近藤さん以外の方を下に見ているようだ。
斎藤さんの意見は、私からしたら一理あるように思えるのにそれを否定して、意見されたら怒るなんて……。
困った人だと思っていれば、近藤さんが小さく頷いた。
「……いや、斎藤君の言うことにも一理ある。我が新選組は、これより守護職が設営している陣を探す!」
そして……。
新選組は会津藩の陣営を探す為、所司代を離れて移動を始めた。
数刻後の事。
私たちが九条河原に辿り着いたのは、もう日の暮れかけた刻限になった時だった。
伏見奉行から追い返された後、新選組はひとまず会津藩邸へと向かった。
奉行所への連絡不備について報告し、どのように動けば良いのかをたずねるために。
すると会津藩邸の役人方は、この九条河原へ向かうように告げたのであった。
だが、ここでまた問題が起こる。
「新選組が我々会津藩と共に待機だと?」
近藤さんが説明をしたが、会津藩士さえ新選組を見て首を傾げたのだ。
「そんは連絡は受けていない。すまんが藩邸へ問い合わせてくれるか」
また、所司代での扱いと似たようなことになり、ついに永倉さんの堪忍袋の緒が切れたみたい。
「ーーあ?おまえらのとこの藩邸が、新選組は九条河原へ行けって言ったんだよ!その俺らを適当に扱うってのは、新選組を呼びつけたおまえらの上司を、ないがしろにする行為だってわかってんのか?」
「そ、それは……私に言われても……」
永倉さんにまくし立てられた藩士が言葉を詰まらせると、近藤さんは大らかな笑顔と共に口を開いた。
「陣営の責任者と話がしたい。……上に取り次いで頂けますかな?」
結果的に、新選組は九条河原で待機することが許された。
今後の動きについて、会津側との相談を終えた幹部の皆さんは、とても疲れているように見えた。
そして、その話し合いに同席していた井上さんも、苦笑を浮かべている。