第5章 戦火【土方歳三編】
「確か、所司代と守護職は似てはいるけど違う組織だったけ……」
守護職は会津藩の仕事であり、所司代は桑名藩の仕事だと聞いた事がある。
藩同士の関係が良好なのか不仲なのか、それは私には分からないけれども色々複雑な事があるのかもしれない。
今、分かることは状況が芳しくないこと。
そして、新選組の要請が届いていないという、あまり良くない状況でもある事は分かる。
「しかし、我らには会津藩からの正式な書状がある!上の元に取り次いで頂ければーー」
「取り次ごうとも回答は同じだ。さあ、帰れ!壬生浪如きに用はないわ!」
「……あんな、言い方しなくても。だいたい、手が足りないから新選組にもと言ったのはお役所なのに」
「うん……酷い」
私と千鶴の不満に近い言葉が聞こえたのか、原田さんが私たちの頭を優しく叩いた。
そして困ったように笑いながら撫でてくる。
「ま、お前たちが怒ったり落ち込むことじゃないさ。俺たちの扱いなんざ、いつもこんなもんだ」
「ですが、あの扱いはあんまりです」
「それに、悔しいです」
私たちは別に新選組の隊士ではない。
それに、最初は彼らに良い印象は無かったけれども、この短い期間で彼らの傍にいたから。
だからこそ、この扱いには怒りを覚えてしまう。
「新選組の皆さんはこれまで必死に京の治安維持を務めてきたのに。味方のはずの人たちが、話も聞かずに追い返すなんて……」
「……お役人や藩の人間はこういうのが多いんだろうね。だから……だから、侍や武士という権力ばかりを振りかざして来る人間は嫌いだ」
怒りがお腹の奥底から溢れて来るのが分かる。
眉間にはどんどん皺が寄っていれば、原田さんが宥めるように言葉をかけてきた。
「ありがとうよ。だが、ここはこらえてくれ。俺らが所司代に対して下手に騒げば、会津の顔をつぶしちまうかもしれないしな」
原田さんの言う通り、こので新選組が桑名藩に歯向かった事が会津藩に伝われば迷惑もかかり、会津藩の顔をつぶすことになる。
だから、今ここにいる新選組の人たちは悔しそうな表情を浮かべているんだ……。
「局長、所司代では話になりません。……奉行所を離れ、会津藩と合流してはいかがでしょうか」
斎藤さんが、そう近藤さんに提案した時だ。
武田さんが遮るように割って入ってきた。