第6章 夏風@仁王雅治
仁王Side
コートが空くんを待っとると、視界の端に入る姿。
手にしとるのはスポーツドリンク。
わざわざブラウスでボトルの汗を拭っとる様子に、それの行き先が気になる。
そろそろ休憩時間じゃや、と移動する部員に紛れて、幸村や真田に見つからんごとひっそりとコートを抜け出した。
うまいこと彼女の後ろに回り込み、休憩、の声を待って近づく。
ポツリ、と呟かれた声に、口角が上がる。
全く気づいとらん様子の🌸。
背後に立ち、そっと耳元ん顔ば寄せた。
うひゃあ!と飛び上がった彼女が、お疲れ様!と差し出してきたモノに、ほぼ確信しとったようなもんじゃが、喜びが湧く。
「暑い中、お疲れ様。
どうぞ」
わざと指先に触れるような持ち方で受け取る。
気にしとらん素振りでドリンクを飲みながらも、彼女ん様子を窺う。
そんし、ちぃたぁ意識しとるがか...?
「🌼、何時頃までおるか?」
心の中では呼んでいる🌸の名前を口に出さんのは、似合わん弱虫のせい。
「えっと、て、テニス部が終わるまでいようかなぁ、と」
俯いた表情に、密かに唇を噛む。
男子テニス部が気になっているのはとうに知っとる。
その理由が「好きな人がいるから」というんも、同じクラスにいればいやでも耳に入ってくる。
誰、待っとるがか、と聞きかけた声を、スポーツドリンクと共に飲み込む。
「ちと、寄り道に付き合いんさい」
困る、と返されれば、この気持ちにケリがつくじゃろうか、と飲みかけのボトルを🌸の頭の上に乗せる。
「日陰におんさいよ」
追いかけられたいような、ボトルを返されたくないような。
複雑な感情のまま、コートに戻る。
1年にちょっかいをかけながら、木陰の姿をチラチラと確認する。
幸村や真田の注意を聞き流しとると、彼女に近づく影。
仲睦まじく話している2人に、腹の底が熱なった。
小言を繰り返す真田を無視して、大股に早足でコートを抜け出す。
なにか、切原に慌てたように話しとる🌸の背後にピタリと立って、切原を睨むごと見た。
真田ん名前を出して切原を追い払うと、飲まれちゃった、と空のボトルを見せる🌸。
「仁王君のテニスは、仁王君にしかできない感じがするもんね」
そがなことを言って微笑んだ🌸の手を、掴みそうになった。