第6章 夏風@仁王雅治
✜
自販機の前で、えっと、と財布を開きながらディスプレイを見上げる。
スポーツドリンクのボタンに伸びた手に、スルッと絡みついた色白の細い指先に、小さく悲鳴を上げる。
「どれにしようかなっ」
低い掛け声とともに掴む手に連れられた指先は、中段のドリンクをなぞって炭酸入りの乳酸菌飲料を選んだ。
「にっま、ま、さっくんっ」
「スポドリ、飲み飽きたぜよ」
ガコン、と落ちてきたドリンクを、少し腰を屈めて、自分越しに取り出す雅治。
「毎回、買うてこんでよか」
「頑張ってるから、手ぶらはどうかなぁ、と思って」
えへへ、と笑う🌸に、ハーフパンツのポケットから小銭を取り出した雅治は、選びんしゃい、と再び🌸の手を取った。
「え、でも」
もう買ったし、と雅治が片手に持つドリンクを見る。
「🌸の分ぜよ」
「えっいいよっ!」
「いいから選びんしゃい」
えっとじゃあ、と選んだのはレモンティー。
二本のドリンクを手にした雅治は、ふむ、と見比べて、ハーフパンツのポケットに半ば無理やりスポーツドリンクを捩じ込むと、レモンティーを開けると、一口飲んだ。
すると、腕を引いた彼を見上げる。
「え、」
こくん、と目の前で上下した喉仏。
とん、と頭の上に置かれたレモンティーのボトル。
レモンティーの味がする口を手で覆う。
「『ファーストキスはレモンの味』言うじゃろ?」
レモンティーじゃがな、と目の前で笑った雅治は、ごちそうさん、とスポーツドリンクを片手に、ヒラッと手を振って行ってしまう。
そうじゃ、と立ち止まり、振り返った。
「寄り道、付き合うてくれるか?🌸」
「っうん!」
「来んしゃい」
ほれ、と差し出された手に駆け寄ると、彼の方から手を絡めて繋ぐ。
「もうちょいコートの近くに来ればいいが」
「なんか、あの距離が丁度よくて...」
「あと、いつになったら『まーくん』呼んでくれるんかのぉ」
「え?『まーくん』がいいの?」
猫背気味の彼を見上げる。
「まぁ、くん?」
「なんじゃ?」
「呼んだだけっ」
「🌸」
「なに?」
「...呼んだだけぜよ」
キュ、と一度強く握られた手。
まだ強い日差しの下。
キラキラとした彼の銀髪を揺らす風がほんの少しだけ涼しかった。
end