第6章 夏風@仁王雅治
「そう、するかのぉ」
そう言った仁王くん。
「なあ、おんし」
なに?とようやく彼を見上げた。
「待ちんせぇっ!」
「っえ?」
竹林の方から聞こえた声に振り返ると、膝に手をついて、ぜぇ、と息を吐く
「えっ?仁王君...?
でも、え?こっちも、におう」
くん、と言いかけて、さっきまで話していた彼の違和感にん?と首を傾げる。
「仁王君?」
「仁王君」
仁王君が仁王くんを仁王君と呼ぶ。
どっちがどっち、と、二人を見比べていると、白銀のカツラを取って、いつもの眼鏡をかけたのは柳生君。
「なんで柳生君が...?」
「コートに来られてしまっては、『校舎裏』ではなく『校舎横』になってしまいますし、また戻るのは難しいでしょう。
お膳立てはしました」
それでは、と柳生君はお辞儀をし、コートの方へと歩いていった。
なにがしたかったんだろう?と遠ざかる背中に首を傾げていると、ウエアのままの仁王君がガーデンチェアに腰掛けた。
「柳生、なんし言いよったがか?」
こちらを見る瞳に、えっと、と視線を落とす。
「『立海ジンクス』の話だよ。
花壇のお手入れと焼きそばパンが買えたことと
あっ『図書館のお悩み相談』やってみたんだって」
「...柳生は、昼は弁当食うとったぜよ」
「え?あ、そうなんだ?」
「図書館のあれ、返事書いとるんは、幸村と柳生じゃ」
「...っそうなのっ?」
「黙っときんしゃいよ」
シー、と人差し指を唇にあてる仁王。
「あと、焼きそばパン買ったんは俺ぜよ」
「あ、おめでとう」
よかったね、と、言うと、それと、と浅く座った背を丸め、自身の指先に視線を落とす仁王。
「花壇の手入れも、した。
柳生は、よう幸村を気遣って手伝っとるが。
今日は、水やりに使うホースが裂けてバケツでやらなならんと言うから、水を運ぶのを手伝った」
「そうなんだ。
テニス部のみんなは、仲がいいね」
「手紙も書いたぜよ」
「...え?」
それって、と瞬く。
「告白、するの...?」
こく、と頷いた頭が上がる。
「こっち、来んしゃい」
「え、」
腕を掴まれて引き込まれたのは、4号館裏の欅の下。
「仁王君、」
「好きだ」
一度、瞬きをしたアイス・ブルーの瞳が、夕日に燦めいた。
「🌼...🌸が、好きぜよ」
名前を呼ぶ声は真剣だった。