第6章 夏風@仁王雅治
「日陰にいろ」という言葉の通り、テニスコートが見える木陰に、飲みかけのドリンクを手にしゃがみ込む。
一年にいたずらを仕掛けて遊んでいる仁王君に、ふふ、と笑った。
幸村君や真田君に注意されても、いたずらっぽく笑うだけで気にしていない様子だ。
「🌼先輩じゃん」
隣からの声に顔を上げると、そこには切原 赤也君。
「切原君、」
「おっ
いーもん持ってますねぇ!」
「あっそれ」
ひょいと手元から取り上げたボトルを開け、ほとんどを飲んでしまった。
「ん?俺、別に先輩の飲みかけとか気にしねぇっす!」
「あ、ちがって、それ、飲んでたのは、」
「切原、なんしちゅうが」
ふら、と現れたのは仁王君。
「っ仁王君っ」
日陰とはいえ暑い中、ピタリと背中に寄り添う彼に驚く。
「遅刻ぜよ」
「委員会っすよ!
仁王先輩こそ、抜け出してるじゃないっすか」
サボりだ!と言う切原君に、コートを指さす仁王君。
「真田にお前を呼んでこいと頼まれたケロ」
仁王君が指す先で待ち構えている真田君に気付いた切原君は、ヤッベ!と、空のペットボトルを手渡して、コートへ走っていった。
残された仁王君に、えっと、とそれを見せる。
「飲まれちゃった」
ごめんね、と笑うと、よか、と気にしていない様子の仁王君。
「練習は?」
「今は一年の指導を幸村たちがしとるき」
「仁王君はいいの?」
同じ3年生でしょう?と彼を見る。
「後輩はみんな、3強様の指導を望んどるからのぉ」
「仁王君のテニスは、仁王君にしかできない感じがするもんね」
ジッ、とこちらを見る視線に、慌てる。
「ご、ごめんねっ!
なんか、知ったような口、きいちゃった
ここから観てるだけなのにっごめんねっ」
「かまわん、」
ポン、と頭を撫でられ、驚いて固まる。
「もうしばらく待っときんさい
帰りなさんなよ」
「あ、うん」
コートへと戻る背中に、いってらっしゃい、と言うと、ヒラッと左手を上げた。
学食で盗み見る彼は、いつもカトラリーを左手で持っていて、教室ではペン回しをしながら窓の外を見ている。
(高校、どっちに行くんだろう...)
立海大付属には、工業高校もある。
男子は半分は工業高校へ進学するので、仁王君と同じ学校に通うのは今年で最後かも知れない、と思うと、寂しさが襲う。