第5章 My Princess-忍足侑士@後輩彼女
放課後の図書室を
ドンッ、とぶつかられ、反射的に、すいません、と口から零れる。
「謝るくらいなら、存在しないでくださーい」
クスクスと笑いながらこちらを見る二人は、同じ上履きの色。
失礼しました、と別の棚に移動する。
(あ、このタイトル)
彼が見たと言っていた映画と同じ題の背表紙に手を伸ばす。
「すいませーん」
わざとらしい声と伸びてきた手に、本を奪われた。
勝ち誇ったような笑顔に、棚へと視線を戻す。
(侑士さんに原作を持ってないか、聞いてみよう)
そうだ、と思い立ち、別の本棚に移る。
なかなか覚えられないテニスのルール。
「🌸は、本で読む方が覚えやすいんちゃうか?」と言う教えを請うた恋人の言葉を思い出し、NDCで分けられた棚の「7」からテニス関連の本を探す。
あった、と手を伸ばしたのは『硬式テニス入門』。
パラ、とさわりを見ていると、邪魔、と背後から聞こえた。
「図書室は立ち読み禁止でーす」
すみません、と謝り、本を手に棚から離れる。
「マジ、うざい」
耳に慣れた言葉を聞き流し、カウンターに持っていく。
貸出手続きをした本を手に向かったのは、職員棟。
職員室や事務室の廊下の端で、立ち読みをする。
(ここが一番楽)
放課後のシンとした廊下に、外からテニスボールを打ち合う音がする。
聞こえたチャイムに顔を上げる。
第二図書室に向かっていると、制服のポケットの携帯が震えた。
-🌸、どこ行ってん?-
図書館にいると伝えた彼は、きっと、姿が無かったから困っているんだろう、と返事を打つ。
-ごめんなさい、お手洗いに。
すぐに戻ります-
-図書室んとこ、おるよ-
やっぱりそうだ、と来た道を戻る。
角を曲がれば図書室、と言うところで、通せんぼを食らった。
「えっと、」
「そろそろやめたら?」
立ちはだかる上履きの色は、彼と同じ。
「待ち伏せしたり付け回したり、見ててウザい。
忍足君、困ってるんだよ」
「侑士さんが?」
困ってる?と聞き返すと、横の別の女生徒が、その呼び方も、と睨みつける。
「『侑士さん』なんて呼び方して、見せつけてんの?」
だってそれは、と言いかけた時。
「俺が、そう呼べ、言うたからや」
窓からの夕日の光はすでに遠のいていて、廊下に微かに伸びる影が増えた。