第5章 My Princess-忍足侑士@後輩彼女
「3-Hの委員は?」
昼休みの空き教室。
集められた海外交流委員会たちが座る座席で、ひとつ、席が空いていた。
誰だ?と顧問教員が名簿を開く。
3-H、と右後方の空き席を眺める。
「忍足と原野か」
珍しいな、と思う。
こういう場面で、彼は早めに来ているタイプだ。
どうあがいても同じクラスにはなれない年上の恋人に、メッセージを飛ばす。
-侑士さん、委員会、忘れていませんか?-
なかなか抜けない敬語も、今では「それがかわええんやから」と独特の訛り方で言う彼は、たぶんサロンで昼食後の胃休めで読書でもしているんだろう。
小さく振動した携帯。
-あかん。忘れとった
どこやったっけ?-
-12:45から東棟3階の開放教室です-
-すぐ行く-
先生、と手を挙げる。
「3-H忍足先輩、すぐに来るとのことです」
「お、わかった」
そう待たずに、廊下からパタパタと駆ける音がする。
「すんません、忘れとりました!」
そう言って滑り込むように入ってきた侑士。
「はっきり『忘れた』って言うなよ」
呆れた声の顧問が、座れ、と席を指す。
「原野はどうした?」
「知りません」
おい、と言った顧問は、まあ一人いればいいか、と委員長に始めるよう指示した。
席に向かう彼が、横を通る時に、トン、と指先で机を叩く。
「おおきにね」
低い小声に、いえ、と小さく返す。
委員としての業務連絡を受け、そろそろ資料作成に手を付け始めなければ、と机上を片付けていると、後ろから声を掛けられる。
「助かったわ。すっかり忘れとった」
前に回った彼を見上げる。
「珍しいですね。
侑士さんが失念されるなんて」
前の空いた椅子を跨いで座ると、普通に飯食っとった、と眼鏡の奥の目が笑う。
「今日は?」
「司書の水谷先生の補助を頼まれています」
侑士さんは部活でしょう?と見上げる。
「終わったら、一緒、帰ろか」
お礼に奢ったるよ、と笑う。
「わかりました」
「放課後、連絡するわ」
はい、と頷いた頭を撫でられ、ほなね、と手を振る彼に振り返す。
(たまに、なんでってくらいに抜けてらっしゃるから...)
よく、なにを考えているか分からない、と言われる彼だが、大概は「なにも考えていない」もしくは「眠い」だけだけれど、と教室の入り口であくびをした横顔を見送った。
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