第4章 SAYONARAベイベー-シャンクス@現代パロ
コツコツコツ、とブーツのトップリフトがコンクリートを叩く。
組んだ腕にかけたバッグから携帯を取り出す。
画面の時計は日曜日の10時39分。
(充分でしょ)
約束の時間は疾うの昔に過ぎている。
遅刻、寝坊の常習犯なので半分諦めてはいたが、40分待ってやった報酬は欲しいものだ。
最長、半日待ったけど。
扱い慣れた画面に、約束を取り付けてからギリギリまでデザインに悩んだセルフネイルを施した指先をすべらせる。
-こっちはついたけど、どこら辺?-
-今、改札抜けて上がっていくから-
-一つ前の駅をでたところ-
-あと一駅だけど?-
-もしかして電波、弱い?-
-今駅についた。28分発に乗るから10分前には余裕でつけるよ-
-今、家を出たから-
-おはよー。起きてる?-
その前には、キャンセルされた通話履歴。
そのまた更に前には、昨夜、キャンセルされた通話履歴。
架電、送信ばかりで受け取りは昨日のお昼の、埋め合わせは明日の10時な!駅でいいだろ?の文字のみ。
ギュッ、と買い替えたばかりの赤いケースのスマホを握り、目閉じて息を吐く。
「よしっ」
画面に向けた人差し指を滑らせる。
さようなら
変換確定っ!と送信ボタンに指先が触れる直前、聞き慣れたエンジン音が聞こえてきた。
やばっ、と一歩後ろに下がる腕を掴んだのは、駅前の大通りを疾走してきた赤のゴールドウィング。
ギャッ、とタイヤの音を立てて止まったそれは眼の前で、フルフェイスのシールドを反射させたライダーに、げ、と背を向けようとしたがスマホを操作する右手首を掴まれるのが先だった。
「セーフだろっ?!」
フルフェイス越しでもはっきりと聞き取れる大声に、うるさ、と顔を顰める。
「どちら様でしょうか?人違いをされていませんか?私は10時、じゅっうっじっのっ!約束をすっぽかされたので帰ろうとしているだけのフリーの女ですっ」
最後は早口になりながら、掴まれた手を振りほどこうとする。
「その彼氏は俺だろっ?!」
上げられたシールドの中を睨みつける。
「いえ、人違いです。私の彼氏はあなたと同じオートバイに乗っていますが、そんな、明らかに『女の子の家から朝帰りしてきました』なんて顔はしてません!」
勢いよく腕を振り払って離れると、カメラを起動したスマホを印籠よろしく突きつけてやった。
