第8章 可愛い後輩
ベルモットから渡された車に乗り込み、アクセルを踏む。
運転をするのも久々で・・・・・・人を乗せるならもっと早めに教えてほしかった。
車に乗る前にチラッと確認したスマホにはジンからのメッセージ。
"早く帰って来い"
彼の居場所を私の帰る場所にしてくれるんだ・・・と、心が暖かくなった。
早く帰りたい・・・。
しかし今の優先順位は、まずギムレットを送り届け次に降谷さんに報告をすること。
ジンとの関係については細かく言うつもりはないが・・・ある程度報告をしないとスコッチが偵察に来る。
ジンと両想いになった今・・・
NOCを続ける意味がわからなくなってしまった。
だからと言って公安を辞め組織の人間になるのも違う。
曖昧な感情のまま、ここにいて良いものか・・・。
ルームミラーでギムレットに視線を向けると、静かに窓の外を見ていた。
元気で明るい彼女もさすがに疲れるのだろう。
「・・・ミモザさん」
「ん?何?」
「ミモザさんは・・・ハニートラップやったことあるんですよね?」
外を見ながら話しかけられたと思ったら。
ギムレットの浮かない表情・・・少し前の私もそんな顔をしていた気がする。
「・・・うん、あるよ。数回だけどね」
「ジンさんが辞めさせてくれたんですか?」
「・・・そうだよ」
ジンが止めてくれなかったら・・・ジンに気に入ってもらえなかったら・・・今もやっていたのかも。
慣れはするけど男全員が汚らわしく感じ、自分は道具としての価値しかない・・・と、人間味がなくなる可能性がある。
「もし・・・・・・好きな人に・・・ジンさんに、ハニートラップを頼まれたら・・・ミモザさんはやりますか?」
「・・・・・・」
ルームミラー越しに視線を合わせ真剣な表情で聞かれた。
好きな人に・・・好きだった降谷さんに言われて組織に潜入して。
「どうにかする」と言われたが、結局どうにもならなくて他の男に抱かれて・・・。
それが引き金となって降谷さんとの関係は崩れ去った。
ジンに頼まれたら?
止めてくれたジンに「やれ」と言われたら?
そんなこと・・・想像もしたくない────