第7章 ライムを添えて ※
ふとミモザのグラスに目を向けると、横の小皿に絞った後のライムが置いてある。
ジンライムか?
俺の部屋ではよく甘そうな物を口にしているが・・・自らジンを注文したのだろうか。
コイツが俺の名前の酒を呑んでいる・・・・・・
それだけで頬が緩み、赤くなりそうだ。
確かジンライムのカクテル言葉は"色あせぬ恋"。
どんな気持ちでコレを呑んでいるんだ?
ミモザ・・・・・・。
「ねぇ、それより・・・ジン。どう?今夜。久しぶりにマティーニでも作らない?」
「あ?」
突然ベルモットが爆弾をぶち込んで来た。
頭おかしいんじゃねぇか?
俺がミモザを気に入っていると知っていながら、わざわざコイツの前で・・・。
「マティーニ・・・ですか?」
マティーニはジンをベースにベルモットを配合して作るショートカクテル。
幸いなことに本人は気が付いていないようだが・・・・・・勘のいいミモザならすぐに辿り着いてしまうだろう。
俺とベルモットに身体の関係があったということを。
「ミモザ知らないの?ジンとベルモットが交われば・・・」
「フン・・・黒と黒が混ざっても・・・黒にしかならねぇよ・・・」
物凄い速さで頭を回転させているのか、ミモザば微動だにしなくなり・・・・・・ピクッと長い睫毛が動いた瞬間、辿り着いたのだと察知した。
潤んだ瞳が揺れている。
こんな所でそんな表情をするなよ。
抱きしめたくなるだろ・・・────
「・・・・・・チッ。面倒臭ぇ誤解をしているようだな」
「・・・別に、してません」
涙が溢れるのを必死に我慢しているような鼻声で言われても説得力はない。
可愛すぎるんだよ。
だから諦められねぇんだ・・・お前を。
まあ、諦めてやる気などさらさらないが。
「いじめちゃったからお詫びにコレ、あげるわ。私からのクリスマスプレゼントよ」
コレがベルモットの狙いか。
この為にウォッカと芝居を打っていた・・・と。
全く、余計なことをしやがって。
世話を焼かれるほどガキじゃねぇ・・・と、一言文句を浴びせカードキーを受け取る。
「借りは返す」
ベルモットにしか聞こえない声で呟きミモザの手を取ってカードキーに書かれている部屋へ向かった。