第7章 ライムを添えて ※
「じゃあ、ミモザは私が借りてもいいかしら?」
私の肩を抱いたまま、ジンに挑発的な笑顔を向けている。
彼女とはよく2人で話をするようになったが、今日は何を企んでいるのか感じ取れない。
「あ?何の用があるんだ」
「もう・・・野暮ねぇ。女同士の秘密よ」
「ベルモット・・・今に始まったことじゃねぇが、秘密主義も大概にしろよ」
はあ・・・と目を閉じて盛大に溜め息を吐いているジンは、隠し事の多いベルモットに呆れているようだ。
「あら、女は秘密を着飾って美しくなるのよ?
A secret makes a woman woman.
・・・って、ね?」
流暢な英語を話し、私にウインクを飛ばす。
秘密を着飾って美しくなる・・・か。
ベルモットに言われるとかっこよく聞こえて、意中の相手をドキドキさせられるなら秘密や嘘も悪くないのかな・・・と、しみじみ思った。
でも・・・私が彼に秘密にしていることは、そんな素敵なものとはかけ離れている。
「・・・ミモザ、お前今夜・・・」
「ってことで、借りていくわね?日付が変わる前まで」
「・・・・・・ふざけるな。半日も連れ回す気か」
声に殺気が含まれているような気がしたが、1ヶ月も断り続けている私を誘ってくれるジンに涙腺が緩みそうだった。
「明日には返すわよ。今夜はウォッカと飲みにでも行ったら?じゃあね」
先に歩き出すベルモットの後に慌ててついて行こうとすると、「ミモザ」と呼び止められて。
「・・・・・・明日は必ず俺の元へ来い」
真っ直ぐ視線を合わせ、落ち着いた声色で。
だけど発する言葉は強引で。
きっともうすぐ開花する。
自分の中にある感情を早く彼に伝えたい。
「は・・・・・・」
「あぁ、そうだわ!ミモザに新入りの世話をお願いしたいのよ。すっかり忘れてたわ」
ジンに「はい」と返そうとした時、ベルモットの大きい声に遮られた。
新入りの世話って・・・私もまだ新人なのに大丈夫だろうか。
「1人で不安だったら私も手伝うわよ。ちなみに明日から。よろしく頼むわね」
「わかりま・・・・・・え、明日?」
恐る恐る上を向くと、青筋を立て口元を引き攣らせているジンがいた。