第6章 揺れ動く心 ※
「遅い」
「・・・すみません」
メイクを諦め、置いてあった服を適当に着て走ってきたが間に合わなかった。
そもそも移動だけで3分は掛かるのだ。
ジンのように足が長い人には理解し難いかもしれないが。
「コート・・・ありがとうございました。
クリーニングをしてからお返ししようと思ってたんですけど、このままでいいんですか?」
「・・・洗って返せ」
急いで来たのに!?
引きずったら汚れるのはジンもわかっていたはず・・・。
やはり、"後日返す"と連絡をすればよかった・・・と後悔した。
「わかりました・・・では、これで失礼しま・・・」
「おい、なぜ下を向いている。一度もこっち見てねぇだろ」
なぜって・・・スッピンだからです。
普段、気合いを入れるためにしっかりメイクをしているから素の顔を見られるのは抵抗がある。
「何だよ?顔上げろ」
「・・・出直してきます」
「意味わかんねぇこと言ってんな。見られたらまずい物でもあるのか?」
「あっ・・・」
握りしめて顔を隠していたコートを取り上げられ、上から見下ろしているジンと視線があった。
濡れた前髪が掻き上げられていて整った顔がよく見える。
というか・・・
「え、はっ・・・な、何で裸なんですか!?服着てくださいよ!!」
「うるせぇな、風呂上がりで暑いんだよ。上半身、着てないだけで騒ぐな。下は穿いてるだろ」
裸なのに顔上げろって・・・どういうつもりで言ったのか。
直視できず手で自分の顔を覆った。
「・・・いつまでここに突っ立ってるんだ。さっさと閉めろ」
「はい!では、失礼しま・・・」
「中に入れと言ってる」
グイッと腕を引っ張られ、部屋に入ると同時に扉を閉められた。
腕を抑えたまま、私の顔を凝視しているジン。
あぁ・・・この人だけには見られたくなかった。
弱味を握られたような・・・
また子ども扱いや、バカにされるに違いない。
ジンの真っ直ぐな視線に耐えられず・・・
肌を視界に入れることもできなくて。
どこを見れば良いのか困惑していると、彼の大きな手が私の髪をサラリと撫でた。