第1章 上司命令 ※
「黒の組織ってそんな・・・・・・
簡単に潜入できるものなんでしょうか?」
「・・・僕は3年前から潜入していて度々そちらで動いてるんだ。
これは公安の中でも、ごく僅かな人間しか知らない。黙っていてすまなかった」
「・・・降谷さんが・・・黒の組織に・・・?」
初めて知った事実に驚愕した。
1年半付き合っているがそんなことは1度も言われたことがない。
彼女と言えども極秘情報をむやみに漏らすことができないのはわかってる。
頭ではわかっているけど、隠されていたという悲しい事実に勤務中なのを忘れて涙が出そうになった。
同時に、会う頻度が少ないことや写真を拒否していた理由がわかって安堵した。
公安の他に"安室透"としての仕事もあり、黒の組織に潜入しているとなれば納得だ。
しかし、なぜ私が潜入に必要なのだろうか。
特に秀でたものもない、一般人の私が。
「・・・私でお役に立てるんでしょうか?」
「ならあの男に近付ける。
君の優しさで奴を癒して油断させてほしい」
「癒す・・・?どうやって・・・?」
「・・・ジンを、君に惚れさせるんだ」
降谷さんの真っ直ぐな瞳から視線を逸らせない。
惚れさせるって何?
ハニートラップしろってこと?
誘惑して、そういう関係になれってこと?
あなたは・・・私が他の男に愛されても平気なの?
「降谷、さん・・・私・・・」
「、上司命令だ。明日から潜入する」
「・・・・・・・・・はい」
だめだ。泣きそう。
ジワジワと涙が込み上げてきて、慌てて顔を伏せた。
まさか自分の恋人に、大好きな彼に他の男の元へ行けと言われる日が来るなんて。
本当は嫌だ。行きたくない。
でもここにいる以上、降谷さんの部下である以上、彼の命令には従わなければならないんだ。
目的の為なら手段を選ばない彼には、逆らえない。
「では、頼んだぞ」
降谷さんは私の肩をポンッと叩いて去って行った。
私の横を通り過ぎる時に小さい声で一言・・・
「今夜、部屋に行く」
・・・なんて勝手な。
一体、どんな顔して会えばいいのよ。
脱力して何のやる気も出ない。
風見さんが退社の準備をした方がいいと言った理由が、ようやくわかった。