第1章 上司命令 ※
「明日から黒の組織に潜入してくれ」
「・・・・・・え?私、ですか・・・?明日から?」
「そうだ。君が必要だと判断した。
幹部のジンの懐に入って情報を探ってほしい」
1週間ぶりに降谷さんが出社して私の元へ来たと思ったら、開口一番にそんなことを言われた。
警視庁公安部に配属されて2年。
風見班に所属し、普段は風見さんからの指示で動いているので降谷さんと社内で話す機会は少ない。
出社しても大量の書類をチェックして、風見さんと一言二言話したらすぐに他の場所へ行ってしまう。
さすが"ゼロ"。
大まかなことは部下に任せて、あちこちを飛び回っているんだ。
忙しいはずなのに疲れた顔を見せず、颯爽と仕事をこなす姿に「かっこいい上司だな」と尊敬する反面、"彼女"としては不満が募っていた。
配属当初から下の立場の私を気にかけてくれて、風見さんと話をする時とは違う、柔らかい雰囲気で接してくれていた。
後に彼に聞いたら、"一目惚れ"してくれたらしい。
よく考えたら降谷さん程の上司が下っ端の私に直々に・・・しかも頻繁に話しかけてくれることなんてないよな・・・と、しばらくしてから気が付いた。
あの時は慣れない仕事に必死で、降谷さんに粗相のないようにと緊張していたのだ。
まさか、好意を持ってくれていたとは夢にも思わず。
真面目で厳しい仕事人間の彼も恋をするんだ・・・と、他人事のように失礼なことを思ったりして。
初めは、憧れの上司の彼女になれた!と舞い上がっていたが、忙しい彼とは滅多に会えない。
1ヶ月会えないのは普通によくあること。
社内で話しかけてくれることも減り挨拶程度。
連絡は業務連絡のような簡易的なもの。
デートは主にお互いの部屋で、出掛けても写真撮影は頑なに拒否された。
釣った魚に餌をやらないタイプか?と残念に思っていたが、部屋で2人きりになるとドロドロに甘やかしてくれる。
美味しい料理を作ってくれたり、好きなスイーツを買ってきてくれたり、お風呂で身体を洗ってくれたり、ベッドやソファでマッサージをしてくれたり・・・。
だいたいその後は上手く丸め込まれて、彼の気が済むまで優しく愛される。
それがあるから寂しさを我慢して今まで乗り越えられた。