第5章 恋の蕾
「兄貴、どうしやす?潜って死体を引き上げやすかい?」
「あぁ・・・もちろん。
こいつで確実に殺した後でな」
そう言ってジンがコートの内ポケットから取り出したのは・・・手榴弾だ。
「奴が海に逃げた時用に引っ張り出してきたんだがな・・・」
「それ・・・海に投げるんですか?」
「ミモザ、ご名答ね」
地上で手榴弾が投げられた場合、爆発までの数秒で5メートルほど離れ、手榴弾に足を向けて地面に伏せれば助かる可能性はあるが・・・
水中で爆発した場合、その圧力波で肺や内臓を押し潰し、その周辺の生物の命を確実に絶つことができる。
「ダイナマイト漁の要領だね」
「あぁ。どんな魚が浮いてくるか楽しみだぜ」
ジンは手榴弾のピンを口で引き抜き、海に向かって思い切り投げた。
キャメル捜査官・・・・・・!!
その時、高く投げられた手榴弾に何かが当たり、空中で爆発した。
「対岸から狙われてるよ!」
「なみかぜ公園に誰かいます!」
「何・・・ッ!?」
あの場所からは1300ヤードは離れているはず。
公園にいる人影・・・ライフルのスコープから覗いている人物が1人と・・・小さな、子ども?
「そこから撃ってジンが投げた手榴弾に当たったって言うの?」
「ふふっ・・・赤井じゃあるまいし。やみくもに撃った弾が偶然当たっただけで・・・」
「きゃっ・・・!!」
「ッ!ミモザ!!伏せろ!!」
ジンの声で全員がその場に屈んで伏せる。
対岸にいる人間が撃った弾が私のポニーテールのリボンに当たり、結んでいた髪がハラリと落ちてきた。
遠くからこれを狙撃できるとは・・・なんて命中率なのだろう。
「ミモザ!どこを撃たれた!?」
「これを・・・。
髪も少し切れましたが問題ないです」
「そうか・・・」
ボロボロになったリボンと私の髪を交互に見て、ゆっくり息を吐くジン。
切ない表情で見つめられ、ドキッと心臓が跳ねた。
「・・・引きずっても構わない、着てろ」
長くて引きずるからと、返した彼のロングコートを再び肩に掛けられて。
狙撃されていたので伏せたが・・・座るな、屈むな、と言われたことを思い出した。
「暖かい・・・」
この温もりをずっと感じていたい。