第5章 恋の蕾
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「くそ!くそくそ・・・ッ!!
どこにもいやしないよ!もうこの島から逃げちまったんじゃないのかい?」
「そうかもしれませんね。
この島から横須賀の岸まで1.2キロ・・・」
「ありえるわね。十分泳いで渡れる距離だわ」
ジンからの視線が痛いほど刺さっている。
自分から離れたというのに、"お前が悪いんだ"と言いたげに眉間に皺を寄せて睨んでいて。
ここで彼の機嫌を取っておいた方が、後々上手く進むのかもしれないが・・・
服装に関しては、私は悪くないと思っているし怒られたことにも納得がいっていない。
「でも・・・もしそうなら、焚き火の痕跡を砂に隠したりしないんじゃない?ここにいると思わせた方が私たちの目が海から離れて、泳ぐ時間も稼げるし・・・」
「じゃあ、何で奴はそうしなかったんで?」
「まだ泳げねぇんだよ。この島に辿り着くのに体力を使い切っちまっただろうからな」
そうか・・・、ここからまた逃げるとしたら更に体力が必要となる。
この島で休む暇なく組織が追いかけてきたから、回復はしていないだろう。
「まあ、逃げようとしても俺たちの船が目を光らせてる。どの道・・・ねぇってわけだ。息を切らしたFBIの逃げ道はな」
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再び分かれてFBIを探すことに──
キャンティとウォッカの後に付いて行くため歩き出すと、クイッとポニーテールを軽く引っ張られ足元がふらついた。
「ぅわっ・・・!!」
後ろに転びそうになった所を、煙草の匂いと共に支えられる。
「ジン・・・」
「・・・それ、着てろ」
肩には黒のロングコートが掛けてあり、暖かくてジンに抱きしめられているようだ。
彼はまだ生脚を気にしているらしい。
最初からこの格好だったのに、何故今になって気にしているのか。
「ありが・・・とう・・・。でも、長くて引きずっちゃいます・・・これ」
「・・・・・・チッ、なら返せ。
今日は車に乗る時以外・・・座るな、屈むな。次からは長いのを穿いてこい。忘れたら戻らせるからな」
ジンは私の肩からコートを取り、自分の袖に通しながら1人先に行ってしまった。
さっきと違うのは・・・私が付いてこられるようにゆっくり歩いている、ということ。