第5章 恋の蕾
海猿島に到着し、クルーザーは引き返していく。
降りた途端、俺から手を離すミモザにイラッとしたが後ろに付いてはいるので黙っていた。
あまりしつこく言うとコイツもうるさいからな。
「何で船返しちまったのさ?」
「離れた場所に待機させるだけだ」
「目立ちますもんね」
ミモザの青白い顔色も良くなり、クルーザーでは変わった様子はなかった。
他の奴らと話をする余裕も出てきてホッとひと息つく。
「でも兄貴、本当に火を見たんですかい?」
「見た所、焚き火の跡なんてないわよ」
「キャンプ客の足跡はたくさん付いてるけど・・・」
ここで火が灯っていたのは確かだ。
視力の良いミモザが「焚き火」と呟いた声も聞こえた。
ウォッカに合図を出し足跡をライトで照らす。
「ここに客がいたのは何時間前だ?」
「船の最終便が夕方の4時・・・今は夜中の3時なので11時間前って所ですかね」
「知ってるか?砂浜についた足跡は盛り上がった角が約半日で丸くなる・・・たがこの足跡は角が立ったままだ」
腰を落とし姿勢を低くして足跡を見ていると、ふわりと甘い香りが風と共に香ってくる。
ミモザが隣で同じ姿勢になり足跡を見ていた。
左手で砂を掻き分けると一部温かい場所があることに気が付き、そこにあった焦げて黒くなった石を手にした。
「見ろ。焚き火に使った石だ。まだ少々熱を帯びている。わざわざ砂に埋めたということは・・・俺たちが来るのを察知しているということだ。散って探すぞ!」
「「「了解!」」」
石を捨て、銃を構えてFBIを探し始める───
「ミモザ」
「わかってます。ジンに付いて行きますよ」
「そうじゃねぇ。お前、その服・・・短すぎだ」
「・・・ショートパンツ、ですか?」
先程、屈んだ時に僅かに見えた、スラリと細長い脚から覗く・・・黒の下着。
目に毒なんだよ、コイツの格好は。
毎回任務の時はその服の下にタイツを穿いてるじゃねぇか。
なんだって今日は生脚・・・。
「タイツ見当たらなくて遅れそうだったので・・・。というか何で今更・・・」
「ちゃんと用意しておけ。肌見せる必要ねーだろ、このバカが!」
言い過ぎだと思いつつも止まらず、八つ当たりのように言い捨て先に歩き出した。