第5章 恋の蕾
その時・・・ドンッと大きい音がして肩が跳ねる。
ジンが運転席側の窓ガラスを叩いていた。
「ど、どうかしやしたか?」
「火だ・・・。たった今、海猿島に灯っていた火が消え失せた」
ジンも見えていたんだ・・・。
確かに、つい先程まで見えていた火が消えている。
ウォッカの横の窓に手を付いて、島を睨んでいるジン。
あの火はキャンプの焚き火ではない・・・?
『やはりそうでしたか・・・。この時期、この時間帯・・・東京湾の海流は海猿島方面に流れています・・・』
無線から流れるラムの声に、ゾワッと身の毛がよだつ。
『その海流に乗って水死体が海猿島に流れ着いたこともあったとか・・・。クルーザーは手配済み。島に上陸して逃げたFBIを狩りなさい・・・』
見つけて始末するまで追い続ける・・・ということ。
島で追われたら逃げるのは困難なのでは。
助け舟を出しているFBIと連絡を取ることができれば良いのだが。
私にできることは・・・・・・
キールを救うために、逃げたFBIを誰よりも先に見つけ出す。
緊張と焦りでギュッと手を固く握りしめた。
♦︎♥︎♦︎
「車酔いする奴がクルーザーに乗れるのか?海の上だぞ」
「ここで待っててもいいんですか?」
「いい訳ないだろ、死ぬ気で付いてこい。しっかり掴まっておけ」
なら何故聞いたんだ・・・と突っ込みたくなったが、グッと我慢。
島に着くまで隅の方で座らせてもらおうと思ったのに・・・「側にいろ」「掴まれ」と何度も言われ、仕方なくジンの言うことを聞いた。
ジンの側にいると、不思議と揺れが気にならなくて。
会話はなくても安心感があり、緊張と焦りで強張っていた身体が解けていくようだった。
「今日はハードな任務ね、ミモザ。
終わったら風に当たりながらドライブしない?」
不敵な笑みを浮かべて私たちを見るベルモット。
遊ばれている気がしたが彼女のバイクに乗ってみたかったので、誘われたことに心が躍った。
「乗りたいです!」
「決まりね!じゃあ、キールがジンの車に・・・
「ふざけるな。お前はさっさと帰って寝ろ」
「・・・・・・」
さっきから寝ろ寝ろって・・・。保護者なの?
心配してくれているのだろうけど・・・執拗な子ども扱いに冷ややかな目を向けた。