第5章 恋の蕾
・・・・・・気持ち悪い。
こんなに激しく揺れる車に乗ったのは初めてだ。
めまいに頭痛、冷や汗も出てきて吐き気がする。
目を閉じても両耳から様々な情報が入ってきて休まらず、意識を飛ばして楽になりたいと思ってしまった。
やっとのことで車が止まり外に出てベルモットたちと合流する。
ゆっくりと深呼吸をして冷たい空気を取り込んだ。
私以外、だれ一人として体調を崩していない。
組織の人間は三半規管が強いのだろうか。
「はぁ・・・」
「・・・・・・おい」
「え?」
ジンの声に顔を上げると彼がこちらに腕を差し出している。
・・・・・・どういう意味?
腕と顔を交互に見て考えても何も汲み取れず。
「チッ」と痺れを切らしたジンに舌打ちをされたが・・・
そんなことをされても、わからないものはわからない。
車内では喋っていたのに。
埒が明かないのでウォッカに助けを求めようとした時、グイッと目の前に腕を出された。
・・・掴まれってこと?
「・・・早くしろ」
「あ、すみません・・・」
私の体調を気遣ってくれている・・・?
言葉にはしないが、彼の態度が私を労ってくれている気がした。
どこにしようか悩んだ末、袖の辺りをそっと掴む。
ただこれだけで胸がキュンと苦しくなって。
キスや身体を重ねた時とはまた違う・・・
決して抱いてはならない気持ちが辛い。
蕾が開かぬよう、グッと気持ちを押し殺した。
「フン!FBIの野郎もザマァないね!」
キールの狙撃により、FBIは車ごと海に飛び込んだらしい。
「俺、今の奴・・・どこかで見た気がする・・・」
「本当なの?コルン・・・」
「ああ・・・もう一度顔を見たら思い出す」
「そう・・・」
微かに複雑な表情のキール。
私よりも前から組織に潜入しているCIA諜報員。
海に沈んだFBIは知り合いなのだろうか。
だとしたら・・・コルンに思い出されたら、キールの立場が危うくなってしまう。
「そいつは面白い・・・。ならば是が非でも今のFBIの骸(むくろ)を探し出し、その死に顔を拝ませてもらおうか・・・」
FBI・・・キールの為にも、できることなら逃げて生き延びてほしい・・・。