第3章 黒ずくめの男
「兄貴、そろそろ・・・」
「・・・あぁ。おい、女。任務が終わったら俺の部屋に来い」
「・・・・・・え?」
「いいか?逃げたら殺すまでだ」
大きな瞳を更に見開いて、顔は青ざめている。
愛車に乗り込んでからもサイドミラーでその姿を目に焼き付けた。
「気に入りましたかい?丸音瑠愛」
「・・・アイツか。最近ウォッカが面倒を見てるという女は。声も出せないほど怯えて・・・何の役に立ってるんだ」
「頭が冴えて動きも良い、視力も良くて射撃の素質もありやす。素の気取らない丸音瑠愛に男は落ちるんでしょうね。先日も間近で見やしたがベルモットとはまた違った魅力が・・・」
「フン・・・もういい」
素のように見せるのも、あの男が仕込んだか。
気に食わねぇな・・・全く。
あの状況で部屋に呼ばれて、女は来るのだろうか。
逃げられないのはわかっているはずだ。
女の代わりにあの男が来るか・・・引き連れてくるか・・・だな。
♦︎♥︎♦︎
「何故てめぇも来た。自分の女が心配か?」
「世話係として・・・心配でしたので。何をされるおつもりですか?」
「ほぉ・・・世話係ねぇ。てめぇも女に執着することがあるんだな、バーボン」
やはり共に来たな。よほど執着しているらしい。
「僕が大事に育てていますので。ジンであろうと手は出さないでいただきたいのですが・・・。
それとも、こういう女がお好みですか?」
「フッ・・・、それはてめぇの方だろう。まぁいい。
俺も暇じゃあねぇんだ、15分で返すさ」
「必ず・・・ですよ」
手を出すな・・・か。
自分の女だと認めているのと同じだろ。
コイツも案外わかりやすい。
誰がこんな女・・・。
俺の好みは"イイ女"、だ。
部屋に入ると、女は扉付近で立ちすくみ俺から距離を取っている。
すぐに逃げられるように構えているのか。
そんなことをしたらあの世行きなのにな。
「難しい顔してんな?アイツと深い関係なんだろ?」
「いえ・・・・・・」
「フン。どいつもこいつも秘密主義かよ・・・気に入らねぇ」
ロクに喋らねぇヤツだ。
もっと声を聞きたいっつーのに・・・。
口数が少ない女に腹が立ち、煙草を取り出してマッチで火をつけた。