第16章 気になる視線
「私で良ければ相談に乗るわ。今夜部屋でゆっくり話しましょ」
「え!?いえいえ、気にしないでください!!本当に大丈夫ですから!」
「何言ってるの。喧嘩なら早いところ仲直りしないと拗れちゃうわよ!21時に私の部屋へ来て。ね!」
「・・・・・・・・・はい」
両肩をガシッと掴まれ、有無を言わさず強引に約束を取り付けられた。
こういう時、きっぱり断れない自分が情けない。
私の返事に満足したグレースは、「待ってるわね〜」と手をヒラヒラさせてカフェを後にした。
彼女とはよく話すようになったが、部屋に誘われるなんて思いもよらなくて。
「瑠愛さん!レジお願い!」
「あ、はい!すみません!」
呆気に取られながらも業務を再開する。
彼女はおせっかいなのだろうか。
それとも、ただの興味本位で人の恋愛話を聞きたいだけなのだろうか。
ジンについて、詳しく話せるはずがない。
部屋でゆっくり・・・と言われても、せっかくの厚意を無駄にしてしまうだけだ。
「瑠愛さん、連絡先教えてくれませんか?今度一緒にお食事でも・・・」
「申し訳ございません。仕事中ですので・・・」
たくさんの視線。たくさんの誘い。
多くの男性は、このマスクのような女性がタイプなのだと実感する日々。
海の中のカフェ。
断っても逃げ場が限られている事実に息苦しくなった。
ジンにはこの姿を見られたくない・・・と、乙女心が見え隠れする。
"喧嘩なら早いところ仲直りしないと拗れちゃうわよ!"
許してもらえるまで説得すれば良かった。
怒られても、一言声を掛けてからアジトを出れば良かった。
何も言わずに潜入して愛想を尽かされたかもしれない。
あぁ・・・、ジンのことを考え始めたら次から次へと後悔が押し寄せる。
やはり気になる、違和感のある視線。
ピンガ・・・・・・どこにいるの・・・────