第16章 気になる視線
「知り合いの知り合い・・・ねぇ。恋人のオトモダチって所かしら?」
「な・・・!?ち、違いますよ・・・あはは・・・」
恋人のお友達?
ジンに友達だなんて、死んでも有り得ない例えに苦笑する。
「そんなに焦らなくて良いわよ」と微笑むグレースは、私の反応を楽しんでいるように見えた。
事前の情報でピンガの変装の件は聞いていなかった。
本来の彼を知らない上、変装した姿を見抜けることができるのか。
この感じる視線の中に・・・彼のものがあるのだろうか。
「瑠愛がお付き合いしてる人はどんな人なの?」
グレースからの突然の質問に一瞬固まってしまった。
恋人がいると言ったことはないのにいる前提で聞かれ、長身で長髪の彼を思い出す。
「え、っと・・・・・・。私の話はいいですよ!グレースさんの恋人はどんな人なんですか?」
「良いじゃない、聞きたいわ。こんなに素敵な女性なんだもの。ここで働くこと反対されなかったの?」
「・・・もう、グレースさん!1人で話を進めないでくださいよー!休憩終わっちゃいますよ!」
根掘り葉掘り質問され長くなりそうな雰囲気だ。
周りに他のお客さんもいる中で、あまりこのような話はしたくない。
興味津々といったグレースの背中を押し、仕事場に行くよう促した。
「恥ずかしがり屋さんねぇ。あ、もしかして・・・喧嘩中とか?」
「・・・・・・まぁ・・・はい・・・」
「あら・・・そうだったの・・・。無理に聞いてごめんなさい・・・」
「いえ・・・・・・大丈夫ですよ」
グレースが気にしないよう首を左右に振ったが、あまり思い出さないようにしていたジンの存在が頭から離れなくなった。
あれから一度も連絡を取っていない。
ベルモットやウォッカからも、ジンの状況をあえて聞かないようにしていた。
彼のことを考えたら、会いたくなる。
反対を押し切り1人で潜入したことを後悔してしまう気がして。
ホームシックの子どものように涙腺が緩んでしまう気がして。
ジンから離れたのは誰のせいでもない、自分自身。
役目を果たすまで合わせる顔がない。