第16章 気になる視線
毎日感じる、たくさんの視線。
この美貌は想像以上に周りの人々を魅了した。
その中でも気になる1つの視線。
パシフィック・ブイに潜入してからずっと、遠くの方で私の様子を伺っている。
もしかして・・・ピンガかもしれない────
そう思ったのも束の間。
私の目が捉えたのは、ウエーブのかかった髪で首元にスカーフを巻き、大きい眼鏡の似合う長身の女性だった。
「コンニチハ〜」
彼女は休憩時間になるとこちらに手を振りながらやってくる。
今日も、また・・・。
「こんにちは!お疲れさまです。いつものでいいですか?」
「えぇ、ありがとう。覚えてくれて嬉しいわ」
フランス出身のグレース。
数年前からここでエンジニアとして働いているらしい。
仕事がバリバリできて、余裕のある年上のお姉さんの印象だ。
ホットコーヒーを受け取った彼女は、一口飲むとカップに付いた口紅を親指で拭った。
「どう?ここでの生活は慣れた?」
「はい、おかげさまで。でも・・・・・・」
「でも?困っていることがあるの?」
困っていること・・・・・・
ピンガが見つからない。
派手なヘアスタイルをしているのなら、すぐにわかると思っていたのに。
エンジニアの中にも、カフェに来る人の中にも、そのような人物が見当たらないのだ。
「あの・・・、パシフィック・ブイに金髪でコーンロウの人っていませんか?」
「コーンロウ・・・?いたかしら?金髪なら何人かいるけど・・・その男性と知り合いなの?」
「知り合い・・・の知り合い・・・、みたいな感じですね」
嘘ではない。
私はピンガに会ったことがないから。
数年ここにいるグレースがわからないのなら、ヘアスタイルを変えているということか・・・。
早く彼を見つけ出さないと・・・・・・私が潜入した意味がなくなってしまう。