第16章 気になる視線
「お待たせ致しました、アイスコーヒーです。ありがとうございました!」
ここはパシフィック・ブイ───
様々な人種、国籍の職員が勤務している。
居住スペースも充実していて、併設されているカフェで潜入を開始した。
学生の頃カフェでバイトをしたことがあったが、まさか再び働く機会がくるとは夢にも思わなかった。
任務とは言え、1人で過ごしていると昔の私に戻ったように感じる。
・・・・・・いや、違う。
昔の私ではなく・・・────
♦︎♥︎♦︎
「カフェの店員を募集してるわ。これでいきましょ」
「・・・カフェですか?ピンガはエンジニアとして潜入してるんですよね?」
「まあ、そうね・・・。ある程度、距離があった方が動きやすいんじゃないかしら。近いとうるさそうだし・・・」
ピンガのイメージが、どんどん悪い方へと膨らんでいく。
ヘマをして海に沈められたり、サポートなど必要ないと追い払われたりしないだろうか。
変装のマスクを用意してくれているベルモットの手元を眺めながら不安は募るばかりだった。
「今の雰囲気でも充分カフェ店員に合ってると思うけど・・・・・・これなんてどうかしら?大人っぽく綺麗めな感じで」
「わ、素敵・・・」
アッシュベージュのロングヘア。
アーモンド型の目に筋の整った高い鼻。
口角の上がった紅い唇は、訪れる客の注目を浴びそうだ。
「・・・・・・ちょっと・・・綺麗すぎませんか?あまり目立たない方がいいですよね・・・」
「派手ではないし・・・大丈夫よ。これからしばらく自分の顔になるんだもの。気に入ったものにした方が良いと思うわ」
確かに、この任務は1日、2日では終わらない。
ピンガのように長期に渡る覚悟で挑まなければ・・・。
全てのマスクの中で最初に薦められたものが1番気に入ったので、この顔と共に旅立つことに決めた。
「うん。綺麗よ、"瑠愛"。あなたなら出来るわ」
「・・・はい。ありがとうございます」
さぁ、"新しい私"の幕開けだ────