第3章 黒ずくめの男
「お前は自ら望んでハニートラップをやってんのか?」
「・・・えぇ、もちろん」
「ほぉ・・・・・・どんな風に誘ってるんだ?俺にも仕掛けてみろよ」
灰皿に煙草を押し付け立ち上がると、ゆっくりこちらに向かってくる。
この言い方は私がNOCだと気付かれているのか。
私の本来の目的を、既に見破られているのか・・・。
高い位置から見下ろされ左手で顎をクイッと傾けられる。
「ほら。バーボンに仕込まれてんだろ?男の悦ばせ方とやらを見せてみろよ」
「っ・・・・・・」
心臓がドクドクと煩い。
扉を背に詰め寄られ、いつの間にか彼の顔が目と鼻の先まで来ていた。
端正な顔立ちに左頬のかすり傷・・・
近すぎて煙草の匂いがより強く感じる。
誘惑しなきゃ。
私の目的はジンを誘惑して彼の懐に入ること。
いつものハニートラップのように・・・甘えるように・・・。
「・・・フン。お前には無理だ。ハニートラップには向いていない」
「ッ・・・・・・」
無意識に目を閉じていたのか、声がして開けると彼の顔は元の高い位置にあった。
何もされず胸を撫で下ろしたのも束の間、これから何が起こるのかと不安が込み上げる。
「ベルモットとバーボンに任せておけばいい。
アイツらの方が上手くやってる」
「・・・バーボンも・・・誰かを抱いてるってことですか?」
「知らねぇのか?それに関しては手練れだろ。
アイツにかかりゃ朝飯前だ」
目の前が真っ暗になった。
やはりバーボンもそういうやり方で情報を得ていたんだ。
薄々気付いていたけど・・・信じたくなかった。
「綺麗な顔してんじゃねーか。ショックで声も出ないよなあ?自分の男が他の女と楽しんでるなんて」
「・・・・・・納得です。彼、本当に上手なので」
「ハッ。認めるのか。潔い女は好きだぜ?」
「私の世話係ですから・・・ね」
やっと・・・自分の気持ちを押し殺せるようになった気がする。
もう、バーボンのことで感情を表に出さない。
私はではない。
"丸音瑠愛"・・・だ。