第12章 すれ違い ※
「男なら惚れた女くらい守れよ」
「・・・そうですね。何故守らなかったのだと・・・悔やんでも悔やみ切れません。君が一生、僕のことを忘れないように・・・君の前で死ぬのも悪くないかもしれないな」
細めた目でこちらを振り返った降谷さんに、ドクドクと動悸が激しくなる。
目の前で死なれたら、忘れたくても忘れられない。
悪夢と闘う毎日が想像できる。
冗談のように言っているが、本気でやってしまいそうで怖くて堪らなくなった。
「はっ・・・はぁ、はっ・・・ッ・・・、う、は・・・」
苦しい。
呼吸が上手くできない。
どうやって息を吸うのか
どうやって息を吐くのか
わからなくなってしまった。
苦しい・・・
苦しい・・・
助けて・・・
止まっていた涙が再び流れ始める。
「はッ・・・は、げほっ・・・、はぁ・・・ッ」
「・・・?」
「どけ!!」
朦朧とする意識の中、ふわりと香る煙草と大好きな香り。
昨夜掛けてもらったコートの温もりだ。
借りたのにちゃんと返せなくてごめんなさい・・・と、心の中で謝罪した。
「ミモザ、ゆっくり吐け。大丈夫だ・・・焦らなくて良い」
「っ、はぁ・・・ん、は・・・はぁっ・・・」
「そうだ、ゆっくり・・・・・・お前が傷付くようなことはしない・・・安心しろ」
大きい手で背中を摩りながら呼吸を合わせてくれるジン。
優しい温もりと信じられないほど穏やかな口調に、心も身体も暖かくなった。
「チッ・・・」
それでもなかなか落ち着かず、痺れを切らしたのか舌打ちが聞こえて。
申し訳なさと見放される不安が波のように押し寄せてくる。
意識が遠退きかけている時、ぼんやりと声が聞こえた気がした。
「・・・・・・塞ぐぞ」
「ん・・・?ッん・・・!」
唇に冷たい感触と口内に入ってくる熱い空気。
塞がれたと思ったら離され、息を吐く。
そしてまた塞がれ、空気を送られる・・・・・・。
繰り返しているうちに息苦しさがなくなり、ジンの顔をはっきり捉えることができた。