第12章 すれ違い ※
完璧にトリプルフェイスをこなす彼が感情的になる姿を見たのは2度目だ。
出会った時から仕事のできる隙のない上司で、甘えさせてくれる優しい彼氏で。
私の前では完璧な彼でいてくれたのだろうか。
「・・・ギムレットに指示をしていたのは・・・・・・降谷さんなんですか・・・?」
「・・・・・・・・・そうだ」
「どうして・・・・・・っ、私がいるのにあの子にも同じ指示をしていたんですか!?」
──意味がわからない。
私とは反対のタイプの彼女を近付けて、どうするつもりだったのか。
頭が割れそうなほど痛い。
金属バットで打たれたかのようだ。
「・・・とジンを別れさせたかった。そんな時ちょうど彼女が現れたんだ。僕の為なら何でもする、と・・・」
「・・・・・・は・・・?」
「抱いてくれるなら何でもすると言うから・・・使わせてもらったよ。ジンを寝取れって」
降谷さんの顔が耳元まで近寄ってくると、ゾワッ・・・と悪寒がした。
この人は平然と何を話しているのか。
つまり・・・降谷さんに好意を持っているあの子を利用して、私からジンを離そうとした・・・。
────「もし・・・・・・好きな人に・・・ジンさんに、ハニートラップを頼まれたら・・・ミモザさんはやりますか?」
以前、ギムレットに言われた言葉を思い出した。
時折見せる彼女の崩れる表情の裏には、残酷な事実が隠れていたんだ。
好きな人の為だとしても・・・他の男と寝ろだなんて。
しかもあの子は公安やFBIからのNOCではなく、完全に降谷さんの為だけに潜入した一般人・・・。
人の気持ちを踏みにじってまで私を取り戻して・・・それで満足なのだろうか。
私がまた自分のことを好きになると思っているのだろうか。
「記憶喪失は予想外だったが・・・まあ、あの男は良くやったよ。ジンは殺しても死ななそうだしな」
「・・・・・・あの男って・・・・・・もしかして・・・」
「エメを襲った男だ。2人のお陰でがジンに必要とされなくなった。寂しかっただろ?よく我慢した、偉かったな」
ちゅっ・・・と耳に唇が触れた。
何故、笑ってるの?
嫌だ、やめて・・・近付かないで・・・
身体は動かないのに涙が止め処なく溢れ出す。