第12章 すれ違い ※
「乗れ」
「や、待って!お願い・・・っ」
「待てない、飛ばすぞ」
運転席側から助手席に押し込まれ、抵抗も虚しくシートベルトをする間もなく急発進した。
振り返るとリアガラスからジンと目が合う。
顔を合わせずに去ろうと思っていたが、こんな別れ方はあんまりだ。
私とバーボンが駆け落ちして逃げている・・・ような状況が不快だった。
隣にいる彼はアクセルを踏み込みスピードを上げ、ジンが追ってこれないよう脇道を掻い潜る。
「ひぃっ・・・う・・・ッ・・・バーボン!スピード、落とし・・・て・・・きゃあっ!!」
「舌を噛むなよ!」
身体が傾き必死にしがみついていたら片輪走行で180キロ出ていた。
し、死ぬ・・・!!殺す気なの!?
彼の運転は穏やかなものしか知らなかったため、驚きを隠せない。
ミラーで確認できていたジンの愛車は徐々に小さくなり、やがて他の車に紛れて見えなくなって。
それでもバーボンは油断せず、確実な場所までアクセルが緩むことはなかった。
ジンにもう会えないという寂しさと、追ってきてくれたという喜び。
もしかして、記憶が戻った・・・?
気になるが確かめる術がない。
裏切り者として始末される可能性があるのにスピード違反をしてまで逃げて良かったのだろうか。
仮にも警察官・・・この人の考えていることは未だに理解できない。
・・・違う。
できないのではなく・・・私が理解しようと努力しなかったのかもしれない。
「・・・着いたぞ」
あまりの怖さに目を閉じて耐えている間に到着した場所は、降谷さんのセーフハウスだった。
「・・・・・・自宅に帰らせてください」
「引き払った。君の帰る場所はもうここしかない」
「なっ・・・勝手に・・・!いくら上司だからってそんな権限ありませんよね!?」
上司と部下の関係なんて、もうどうでも良かった。
ミモザが終わりならば・・・従順な部下も終わりにしよう。