第12章 すれ違い ※
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「荷物を纏めたらすぐに帰ってこい。僕の部屋、好きに使って良いから」
「え?だ、大丈夫です!自宅に帰ります!!」
──断ったのに無理矢理握らされた合鍵。
私が住んでいた部屋は解約しろと言われ・・・それも半ば強引に。
降谷さんの部屋で過ごすなんて落ち着かないし、一緒に住むなら野宿する方がマシだ。
結局、昨夜はアジトの自室で一晩を過ごした。
降谷さんの元へ行くのが嫌だったのもあるが・・・・・・ジンに会って、彼のことで胸がいっぱいになったから。
貸してもらったコートを握りしめ、懐かしい香りに包まれながら寝てしまった。
そのせいか・・・愛し合っていた頃の夢を見て。
嫉妬しているジンに激しく抱かれる夢。
待ち望んでいた幸せな時間。
できれば、夢のまま覚めないでほしかった。
コートはあの時のようにクリーニングに出そう。
裾は汚れ、抱きしめていたせいで皺だらけ。
この状態で返すのは申し訳ない。
本当はジンの顔を一目見てから出て行きたいけど・・・決心が揺らいでしまうから会わずに行かなければ・・・。
「ミモザさーん!おはようございますっ」
「おは・・・よ・・・・・・ちゃんと着替えてから部屋を出た方がいい・・・と思うけど・・・」
「ちょっと、ジンさん探しててぇ・・・・・・見ませんでした?外で煙草吸ってるのかなぁ」
大きめのシャツを1枚、ワンピースのように羽織っているギムレットに顔が引き攣る。
なぜ、その姿でジンを探しているのか・・・聞かなくても想像できてしまう自分が嫌だ。
・・・・・・そんなはず、ないよね?
ジンは私と同様にギムレットに対しても冷たく接している。
彼女はしつこくジンに迫っているが、彼の態度から男女の関係に発展するとは思えなかった。
しかし・・・・・・今のギムレットは"彼シャツ"姿で、そのシャツからは煙草の匂いがする。
私はもう組織を離れるのだから真相など知らなくて良い。
知らない方が自分の為。
そう理解しているのに足が動かなくて。
知りたくない。
本当は知りたい。
「ミモザさん、お伝えしたいことがあるんです」
そんな私の心を読んだような、ギムレットの作り笑顔に背筋が凍った。