第12章 すれ違い ※
「あ・・・の、ジン・・・・・・っくしゅ」
「はあ・・・・・・さっさと戻れよ」
何を言い掛けたのか。
何を伝えたかったのか。
強引に聞く手もあったが、これ以上身体を冷やしてほしくなかった。
お前が体調を崩したら、看病はどうせバーボンがやるんだろ。
そうしたら治るまで顔を見られなくなる。
アイツだけが独占するなど・・・許さない。
ミモザの綺麗な背中が目に毒で、手を伸ばしそうになった。
腕の中に閉じ込めて下心を見せたら・・・
お前は「最低」だと罵るか?
どんな形でも側に置いておきたいと思う俺は狂っているのかもしれない。
頭が痛ぇ・・・。
部屋に戻ろうとするミモザの肩に、着ていたロングコートを掛けると甘い香りが鼻孔をくすぐる。
俺の身長よりも30センチ以上低いため、裾は地面に付いていた。
「・・・ジ、ン・・・・・・」
「・・・・・・」
この小柄な身体をコートごと抱きしめたら・・・・・・俺たちの関係は変わるだろうか。
震えた声と震えた身体を俺のものにできるだろうか。
ギムレットとの行為で不完全燃焼だった熱が、今になって燃え始めた。
その気になれば連れ去ることなど朝飯前だ。
反抗する隙も与えずベッドに組み敷いて、一晩中抱くことも簡単にできる。
しかし、俺が欲しいのはコイツの身体だけではない。
心も・・・・・・全てを手に入れたくなった。
無理矢理奪っても意味がないのだ。
「・・・お前には似合わない。二度とするな」
もう少し気の利いた言葉は出ないものか・・・と自分で突っ込みたくなる。
だが、急に優しくなったら気色悪いだろ。
あの男のように歯が浮くようなセリフなど言えやしない。
この場にいてもミモザの身体が冷えていくだけ。
これからのことは、また後で考えれば良い。
冷たく接していても逃げずに組織に居続けているのだから、俺の前から消えることはないはず。
時間はいくらでもある。
そう思い、後ろ髪を引かれる思いだが早々に立ち去ることにした。