第11章 私の居場所
「ごほんっ」
「はっ・・・も、申し訳ありません!!!」
降谷さんのわざとらしい咳が聞こえると、風見さんが慌てて私から離れた。
慌てふためき、部屋の隅の方まで後ずさっている。
変なことをしたわけではないのに。
この抱擁に疾しい気持ちは一切ない。
感動の再会で溢れそうだった涙が引っ込んでしまった。
「まさか、風見もだったとはな・・・・・・」
「いえ!!滅相もございません!!これは・・・その、つい・・・・・・」
「私は大丈夫ですよ。風見さん・・・ご心配をお掛けして本当に申し訳ありませんでした」
降谷さんとはもう恋人ではないのに、なぜ不機嫌なのか疑問が湧く。
さっきの件については終わりにしようと2人の会話に割って入り、風見さんに深々と頭を下げた。
そんな私の姿を見て、我に返ったのか静かな空間が訪れる。
「・・・・・・とにかく無事で良かった、おかえり」
「ありがとうございます・・・・・・これからは連絡するようにします」
「・・・・・・降谷さん、言ってないんですか?」
「・・・今から言う」
私の発言に驚いたような風見さんが降谷さんに問いかけた。
言ってない・・・とは?
2人の顔が曇っていて、良い知らせではないことは聞かなくてもわかる。
公安に訪れたのは、ただ単に顔を見せる為ではなかったんだ。
自分でも気付いていたのに。
"居場所がない"・・・・・・と。
───聞きたくない。
聞かずにここを去りたい。
ドクン・・・ドクン・・・と痛いほど脈が波打つ。
「・・・」
待って・・・やだ・・・・・・
お願い・・・・・・言わないで・・・・・・
「組織の潜入は終了、上司命令だ」
上司命令はいつも突然で。
有無を言わせない圧が私を苦しめる。
雨で濡れた身体が、今になって冷えた感覚がした。