第11章 私の居場所
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もう二度と乗らないと思っていたバーボンの愛車。
同じ任務だろうと乗りたくなかったのに、上手く言いくるめられ最近の移動は専らコレだ。
付き合っている時にこれくらい共に行動してくれていたら・・・と、戻れない過去に溜息が出る。
せめてもの反抗で・・・というのは子供みたいだが、助手席ではなく後部座席に乗るようにしていた。
「着替え、持ってきましたよね?着替えてください。絶対に見ませんので」
「えっ・・・・・・今、ですか?」
「今です」
カーテンのような仕切りのない密室で・・・
よりによってバーボンの前で着替えろと?
別に減るものではないが、気持ちの良いものでもないのは確かだ。
「・・・・・・到着してから1人で着替えても・・・」
「急ぐので着替えておいていただけると助かります」
「・・・・・・」
丁寧な話し方に圧力が掛かっているバーボン。
結局、私はこの人に敵うことはないのだなと度々思い知らされる。
ふと窓を見ると水滴が付いていて。
パラパラと雨が降り出していることに気が付いた。
晴れ予報だったのに・・・なんて、もうどうでも良い気分にさえなる。
「・・・・・・絶対に見ないでくださいね」
「もちろんです」
任務用の黒い服から、持ってこいと言われていたスーツに着替える。
何故スーツが必要なのだろうか。
尋ねても「着いたらわかる」と言われるだけで教えてもらえない。
ブラウスのボタンを留めていると、ミラー越しにバーボンと視線が合った。
「っ!!・・・絶対に見ないって約束しましたよね!?」
「ははは、すみません。見えていませんので安心してください」
────やられた・・・・・・。
しっかり目が合ったのに、見てないと言われて信じられるわけないだろう。
やはり圧に負けずに断れば良かった・・・。
目を細めて睨んでも、にこやかに運転する顔が見えるだけ。
・・・・・・もう今更か。
彼には私の全てを知り尽くされている。
着替えを見られた所でジンが嫉妬してくれるわけでもないし、顔を赤くして可愛いと思ってくれるわけでもない。