第11章 私の居場所
──────調子が狂う。
「あ!ジンさん!煙草落ちてます!!」
「あ・・・?ああ・・・・・・」
扉が閉まる寸前にあの女と視線が交わったことで、また無意識に目で追っていたと気付く。
突然振り返りやがって。
いつもは見向きもしないくせに。
落ちた煙草を拾い、ジュッ・・・と灰皿に押し付けた。
「ふふっ。ジンさんのそれ、癖ですか?顎を親指で撫でるの」
「・・・ただ手を置いてるだけだろ」
「撫でてる時の顔、哀愁漂っててかっこいいですよ!」
「フン・・・」
顎裏にしばらく付いていた赤黒い跡。
こんな所にも怪我をしていたのか・・・と特に気にしていなかった。
痛くも痒くもなかったが、触れると愛しさが込み上げるような不思議な感覚がして。
失った記憶に関係があるのではと触れていたが何も思い出せず。
しかし、これも無意識に指が動いてしまう。
「それにしても、ミモザさんは照れ屋さんですよねー!素直に認めちゃえばいいのにっ」
「・・・くだらないことで騒いでんじゃねぇよ」
「えー?ジンさん、知らないんですか?」
──何がだよ。
要件を先に言え。
この女は毎回ベラベラと人のことを騒ぎ立てやがって・・・。
いちいち反応するのが面倒になり放置しても、空気が読めない暇人女は他人のことに首を突っ込みやがる。
主にミモザとバーボンの関係について。
「僕の片想い」だ?
そうだろうな。
お前みたいな腹ん中で何を考えているかわからねぇ野郎の想いなんざ、一生実ることはない・・・・・・
「実はミモザさんも、バーボンさんのこと好きなんですよ。両想いなんです」
「・・・・・・は?」
また訳のわからない虚言癖を。
呆れて物も言えない・・・と表情には出さなかったが、ドクンと嫌な音が鳴り額に汗が滲むのを感じた。