第10章 あなたは誰?
「ミモザさん!何見てるんですかぁ?」
「っ・・・・・・え、と・・・・・・」
「あっ!ジンさんだ!ジンさ〜ん、お身体冷えますよー!」
穏やかな時間はギムレットによって終わりを告げた。
彼女の声でこちらを向いたジンと目が合い、ドクン・・・と胸が熱くなる。
しかし・・・私たちを見た彼は深い溜息を吐き、病室にいる時のような顰めっ面になってしまった。
"私たち"なのか・・・"私"だけ、なのか。
せっかく皺の寄っていない顔を見られたのに・・・。
「ジンさん!私、完治しましたよ〜!ジンさんが助けてくださったお陰ですっ」
「だから知らねーって言ってるだろ。俺はお前を助けた覚えはない」
「えー・・・早く思い出してくださいよぉ。お姫様抱っこしてくれたんですよ?ふふっ」
ジンの顔を覗き込みながらキラキラした瞳で話している。
記憶喪失になってから、ギムレットはいつ彼の前に顔を出していたのだろう・・・。
心なしかジンの態度が、私よりもギムレットに対しての方が砕けているように感じて。
やるせない気持ちになった。
「ミモザさん。私たち先に戻ってますね!」
「え・・・・・・」
私たちって・・・・・・まだ私からジンを奪う気なのだろうか。
「どちらも必要ない。1人で戻れる」
「もー・・・そんなこと言わないでくださいよぉ」
この1ヶ月間、毎日のように言われる・・・
「必要ない」
まともに話を聞いてもらえないから、記憶を失う前の私たちの関係も話せなくて。
1年間の記憶が抜けていることはウォッカが伝えたらしいが、特に戸惑った様子は見られなかった。
「ミモザさん。ジンさんはもう忘れてしまったようですし・・・・・・私、アプローチさせていただきますね?」
「・・・何言ってるの・・・ジンには近付かないで。すぐに・・・思い出すはずだから・・・」
「あははっ!ミモザさんこそ何言ってるんですか〜。もう、"必要ない"んですよ?ミモザさんは私と同じ立場になったんです。遠慮しません」
遠慮なんて、したことないじゃない・・・と思ったが、悔しいけど言い返すことができなかった。