第10章 あなたは誰?
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手術室の前ではウォッカが1人神妙な面持ちで、"手術中"の文字を見つめていた。
もうすぐ10時間が経つ。
外に視線を移せば空が紅く染まり始めていて。
椅子に座ってはすぐにウロウロと歩いての繰り返しで全く落ち着かない。
──兄貴・・・戻ってきてくだせぇ・・・。
自分の身を挺して女を守る兄貴を見たのは初めてだった。
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「・・・ウォッカ」
「へい」
「お前・・・誰かを本気で愛したことはあるか」
「・・・・・・・・・はい?」
何の冗談だ・・・と思った。
いや、冗談にもならねぇ。
息を吸うように人を殺している男が誰かを愛す?
そんなことが有り得るのか?
有り得るのならば・・・それはこの世の終わりなのではないか・・・────
兄貴に抱かれたがる女は山程いる。
基本、来るもの拒まず去るもの追わずで兄貴にとってセックスは、ただの性欲処理に過ぎない。
どんなに美人だろうとスタイルが良かろうと、深入りすることは1度もなかった。
しかし・・・
そんな兄貴がミモザに出会ってから、人が変わったように雰囲気が柔らかくなった。
ミモザを見たり彼女に関することは、物凄く愛おしそうな表情で。
常に側に置いて任務は同行させるだけ。
彼女は、ああ見えて俊敏に動き銃の扱いも上手く、強い女だと思う。
視力の良さも即戦力の武器だ。
それでも最前線に出さない・・・・・・つまり、兄貴にとってミモザは自分自身で守りたい、かけがえのない存在ということ・・・。
今まで黙って見ていたが、今回の件でそうもしていられなくなった。
2人の仲を割きたいわけではない・・・・・・しかしミモザがいる以上、再び同じようなことが起こるのではないだろうか・・・。
兄貴から弱点をなくしたい。
ウォッカの中で考えが纏まった時、"手術中"のランプが消えた────