第9章 渡さない ※
医務室の入り口には腕を組んだジンが壁に寄りかかり、ベッドには満面の笑みのギムレットが座っていて。
私が姿を現すとその笑顔は更に輝きを増した。
「ミモザさん!助けてくださってありがとうございました!怪我は1ヶ月くらいで治るみたいですっ」
「そう・・・」
「あと・・・ジンさんをお借りしてすみません。紳士で優しいですね!」
「・・・・・・」
この子を助けて良かったと・・・助かって良かったと思えない私はなんて酷い女なのだろう。
「1ヶ月ですか・・・。今のアパートは引き払った方が良いでしょうから、ホテルの部屋を取りましょうか」
「あ、大丈夫です!ジンさんがここに住んでも良いと言ってくださったので心配いりません!」
────ここに住む?
ジンがそうしろと言ったの?
「兄貴、良いんですかい?」
「・・・コードネームを与えられているんだ。問題ない」
コードネームを与えられたら者はアジトに部屋を持てることになっていて。
だから私もここで寝泊まりすることが多いのだが・・・。
やはりジンが彼女に言ったんだ。
ギムレットもアジトで暮らすとなると、必然的に顔を合わせる頻度が高くなる。
ジンとギムレットが一緒にいる所も・・・。
「そうですか・・・それなら安心ですね。ではミモザ、行きましょうか」
「えっ・・・いえ、私1人で・・・」
「僕も行くと言ったでしょう?」
──この人は本当に・・・ずるい。
あんな別れ方をしたのに何もなかったように振る舞って。
人が弱っている時に優しくして。
放置されたと思っていたら、知らぬ顔をしてフラッと寄ってくる。
優しくされても、もうあなたのことは好きにはなれないのに──
「バーボン、コイツを部屋まで連れて行け」
「僕ですか?ジンが付き添った方が良いかと・・・先程のように。僕はミモザに付き添いますので」
嫌味を言いその場から立ち去ろうとするバーボンのこめかみに拳銃が突き付けられる。
「ジン・・・!やめてください!!」
ギムレットの時よりも物凄い剣幕で。
私が止めたら逆効果かもしれないという考えもよぎったが、止めずにはいられなかった。
「貴様・・・口を慎めよ。ミモザはもう俺の女だ・・・二度と近寄るな」