第9章 渡さない ※
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「兄貴、俺が医務室まで運びますぜ」
「必要ない。扉を開けておけ」
先程のようにギムレットを横抱きにしたジンは、私に何も言わず行ってしまった。
あぁ・・・最後までジンが運ぶんだ。
朝はギムレットのことを毛嫌いしていたが、弱っている彼女を見たら助けてあげたくなったのだろうか。
「・・・ミモザ、大丈夫か?」
「あ・・・はい!協力してくださってありがとうございました」
心配そうな眼差しのウォッカに目頭が熱くなる。
こんな所で泣くな。
子どもではないのだから。
でも・・・ギムレットを無事に助け出し、ホッとして涙腺が緩んだ・・・と言い訳ができるかもしれない。
ジンがあの子に触れることは絶対にない・・・と、何故自惚れていたのだろう。
涙が溢れないよう、唇を強く噛み締めた。
「お疲れさまです」
「・・・・・・!」
──バーボン。
彼と別れてから会わずに過ごしてきたのに、よりによって気分が落ちている時に・・・。
「ギムレットにスタッフの男について聞きました。あなたも充分気を付けてくださいね」
「・・・探し出して捕まえます。これ以上被害に遭ったらモデルの任務ができなくなりますから」
──なんて。
もうギムレットのことなどこれっぽっちも心配していないのに。
また同じような目に遭って怪我をして・・・ジンが彼女を助ける姿なんて見たくない。
そんな醜い理由は自分の中に押し込んで、絶対に捕まえる。
「あなたが被害に遭っても困ります。僕も行きますよ」
久々のデートを楽しみにしているかのように微笑んでいるバーボン。
ジンにバレたらどうなるか考えていないのだろうか。
「バーボン、兄貴に殺されたくなけりゃミモザに近付くなよ」
・・・ほら。ウォッカにも言われている。
「バーボン」と名前を出しただけで恐ろしい程の殺気なのだから。
しかし・・・ジンに反抗してしまったから「勝手にしろ」と放り出される可能性も否めない。
そんなの・・・────無理だ。
殺されるよりも辛い。
「兄貴から医務室まで来いと呼ばれたぞ」
まだ怒っているかな。
嫉妬をした私が悪いのだから仕方ない。
誠心誠意、謝ろう。