第9章 渡さない ※
「お前は助手席に乗れ」
「すみません、ミモザさん・・・」
「・・・・・・・・・」
アジトに戻る車内は吐き気を催しそうなほど不快だった。
何故そのような状況になったのか。
ギムレットを運び後部座席に乗せ、その隣に私が座ると当然のように思っていたのに。
彼女の隣にはジンがいて。
傷む所があったのか彼に支えてもらっている。
なかなか状況を把握できず、一目見ただけで息が苦しくなり立っているのがやっとだった。
「あ・・・・・・私・・・バーボンの・・・」
「ふざけるな。乗れ」
「・・・・・・はい」
顔は合わせたくないが、バーボンの車に乗った方がマシだと思うくらい心を抉られて。
勝手にギムレットに駆け寄った罰だろうか・・・差し伸べてくれた手を離した罰だろうか・・・──
彼の定位置の助手席に座れるなんて、本当だったら飛び跳ねるほど光栄なことで。
同じ景色を同じ角度から彼の目線を味わえるのに、顔も上げられずアジトに到着するまでずっと下を向いていた。
──ジンは攫われて怪我をしたギムレットに寄り添っているだけ。
私が不快な思いをするのは間違っている。
むしろ、私1人ではできなかったことをウォッカと共に成し遂げてくれたのだから。
笑顔でお礼をしないと。
ギムレットを労らないと。
「ん・・・いた・・・い・・・・・・」
ギムレットの痛々しい声と服の擦れる音に耳が集中してしまう。
聞きたくない。
聞きたくない。
近寄らないで。
触らないで。
「ミモザ」
「っ・・・!!」
突然呼ばれた声にドクンッ・・・と心臓が大きい音を立てた。
全身がドクドクと波打ち沸騰しそうなほど熱い。
返事をしようにも喉がカラカラで張り付いていて掠れてしまう。
「・・・は・・・ぃ・・・」
「・・・攫った野郎を調べる。着替えたら俺の部屋に来い」
「・・・・・・あ、あとは私1人で大丈夫なので・・・、ありがとう・・・ございました・・・」
「・・・・・・ハッ」
ジンの乾いた笑いが耳に残る。
なんて心の狭い可愛げのない女なんだ。
私が男だったら、こんな女ごめんだよ。