第4章 Virgin Complex【ミケ】*
「誰にも聞いてないよ。チーム会議はしてないからね。」
「は?」
カップに入ったコーヒーを飲もうとしていたエルヴィンが固まった。
いやエルヴィンだけではない。俺もリヴァイも硬直している。モブリットはこちらと目を合わせないようにしているのか、遠くの床を凝視している。
当然のように言い放ったが、彼女は小さなルール違反を犯しているのだ。本来、立案者が企画開発チームの誰であっても部長が出席する会議を開く前にはチーム内で会議をするルールがある。彼女はそれを悪びれる様子もなく言ってのけた。
「おい…チーム会議を踏むのは守るべきルールだろう。」
リヴァイが足を組んで苛立ちを露わにしている。
「そうだけど、結局はチーム課長である私が決定するからね。不明点も残していないし打開策も考えているさ。」
「ならなぜ俺たちに処女を抱いた事があるか聞いた。」
「念の為だよ、念の為!そんなに怒らないでよリヴァイ!」
リヴァイは「チッ」と舌打ちをして、持参していた紅茶を一口含んだ。彼が言いたげにしている言葉の続きを冷静なエルヴィンが繋ぐ。
「我々に提供できる情報は無いが…これから手当り次第に鮮明な記憶を持つ社員を探すつもりか?」
「いいや、私のチームに一人…処女がいる。」
「は?」
「モブリット、彼女を連れてきてくれ。」
「は、はい!」
光の速さで会議室を出ていくモブリットを誰も引き止める事はできなかった。三人とも、彼女の発言にまた硬直してしまっているからだ。
これから見舞われるであろう最悪の状況。それを考えると冷や汗が垂れた。
「おいおいおい、待て待て待てクソメガネ。てめぇ自分が何を言ってるのか分かってるんだろうな?」
「ハンジ、お前が何をする気なのか何となく察しがつくが…セクハラどころか人権の侵害ではないか?」
「強制はしないよもちろん。でも彼女、“機会があればさっさと捨ててしまいたい”って言ってたんだよ、提案するだけだから!」
「ほう…提案するだけか。このご時世はそれすらも危ういんだがな。笑えないジョークは止めてくれないか。」
「エルヴィン、こいつはどうしてもクビになりたいらしい。会社を守るために早急に切れ。」
「待って三人とも!落ち着いて!」
── コンコン
ハンジが責め立てられている中、会議室に入室の合図が鳴り響く。