第3章 好機な誘惑【エルヴィン】*
目が覚めると、目の前にナニかがあった。
それが人間の胸元だと気づくのに時間はさほどかからなかった。
「エル…ヴィン……」
顔のある方へ視線を向けると、金髪で彫刻のように彫りの深い男性の顔。
よく見知った彼だった。
目を瞑っているのはまだ眠っているからだろう。
そんなエルヴィンの顔を見て、私は全て思い出した。
昨晩団長達と夜会に出かけて、お酒に紛れて薬を盛られた。
それに気づいたのは一口飲んだ後。
ガブリエール卿は耳打ちで“その一杯を全て飲み干せば前回の融資の倍を出す”と言ってきたので、私はそれにのった。
危険な事は理解していた。
でも今回の融資はいつもより少なく、団長達と悩んでいた所の一声だった。
きっとその後に肉体関係を迫られるだろう。
そう思っていたが条件は飲み干すだけ。
約束通り倍の小切手が握らされた。
少々呆気にとられたが好都合だった。
次第に動けなくなるほど媚薬は効き目を増したが、そのタイミングで夜会はお開きとなった。
私は揺れる馬車内で苦痛に耐えて、そこから記憶が無い。
でもエルヴィンと一夜を共にした事は断片的に思い出した。
「あぁ…私…なんてことを……!」
後輩をこんな目に遭わせてしまうなんて。
なんて謝れば良いのか、まだ働ききらない頭を精一杯働かせた。
そんな時、目の前の碧眼がゆっくり開いた。
「っ、エルヴィン…!本当にごめんなさい!」
私は上体を起こして謝罪した。
だが自分たちが裸であることに気づいた。
そしてエルヴィンに抱きしめられていたことにも。
慌てて布団を捲りあげ胸を隠すが、そのせいでエルヴィンの下半身が見えてしまいそうになる。
でも咄嗟に布団を捲るのを止める事もできず、自分の身体の前だけを隠した上でエルヴィンに背を向けた。
「先輩として…人として最低な事をした…!こんな目に遭わせてしまうなんて弁明の余地もないわ…」
背を向けたまま私が猛省すると、背中に人肌を感じた。
逞しい両腕が私を包み込む。
「、謝らないでくれ。」
「でもっ…!薬を飲まされていたからあまり覚えていないんだけど、私から…誘ったんでしょ…?」
「あぁ。だが誘いにのったのは俺なんだ。だからだけの責任じゃない。」
抱きしめる力を強くして、エルヴィンは私の肩に頭を寄せた。